「ワルキューレ」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
タグ: 2017年版ソースエディター
(同じ利用者による、間の6版が非表示)
1行目: 1行目:
{{Otheruses|[[北欧神話]]のワルキューレ|その他}}
+
{{Otheruseslist|北欧神話の登場人物|ドイツ語表記に基づく他のトピック|ワルキューレ (曖昧さ回避)|英語表記に基づくのトピック|バルキリー}}
[[File:The Valkyrie's Vigil.jpg|thumb|right|200px|エドワード・ロバート・ヒューズによるヴァルキリーの不寝番]]
 
'''ワルキューレ'''({{lang-de|Walküre}})は、[[北欧神話]]に登場する複数の[[半神]]。
 
   
  +
[[ファイル:The_Ride_of_the_Valkyrs.jpg|サムネイル|400x400ピクセル|『ワルキューレの騎行』([[ジョン・チャールズ・ドールマン]]、1909年)]]
戦場において死を定め、勝敗を決する女性的存在である。彼女たちは[[王侯]]や[[勇士]]を選り分け、[[ヴァルハラ]]へ迎え入れて彼らをもてなす役割を担ったが、これは[[尚武]]を旨とする[[ヴァイキング]]の思想を反映したものと考えられる<ref>菅原、p.69 - 70。</ref>。
 
  +
'''ヴァルキュリヤ'''({{lang-non|'''valkyrja'''}}、{{lang-en|'''valkyrie'''}}、{{lang-de|'''Walküre'''}}、ヴァルキュリア、ヴァルキリー、ヴァルキューレとも。「死体を選ぶもの」の意)は、[[北欧神話]]において、戦場で生きる者と死ぬ者を定める[[女性]]、およびその軍団のことである。戦場で死んだ者の半分を[[オージン]]の治める死者の館[[ヴァルホッル]]に連れて行く役割を担う。ヴァルホッルでは、死んだ戦士たちは終末戦争[[ラグナロク]]に備える兵士[[エインヘリャル]]となるが、ヴァルキュリヤは彼らに[[蜂蜜酒|蜜酒]]を与える給仕ともなる。また、ヴァルキュリヤは[[ヒーロー|英雄]]をはじめとする人間たちの恋人としても登場し、そのような場合は王族の娘として描かれることもある。[[ワタリガラス]]を伴って描かれたり、また[[ハクチョウ|白鳥]]や[[ウマ|馬]]と結び付けられることもある。
   
  +
ヴァルキュリヤは、[[13世紀]]に書かれた『[[スノッリのエッダ]](散文のエッダ)』『[[古エッダ]](詩のエッダ)』『[[ヘイムスクリングラ]]』『[[ニャールのサガ]]』などに記述が見られる。[[スカルド詩]]や[[14世紀]]の[[呪文]]、[[ルーン石碑|ルーン碑文]]などにも登場する。また考古学的には、ヴァルキュリヤを描いたと考えられている魔除けなどが出土している。
==名称==
 
[[日本語]]として定着した「ワルキューレ」は、[[ドイツ語]]の Walküre (ヴァルキューレ、ヴァールキューレ)に由来する。北欧神話の原語である[[古ノルド語]]では、単数形が Valkyrja (ヴァルキュリヤ、ヴァルキュリャ)、複数形は valkyrjur(ヴァルキュリユル、ヴァルキュリュル)で、語義は valr ([[戦場]]の[[死体]])と kjόsa (選ぶ)を合わせたもので、「戦死者を選定する女」を意味する<ref>菅原、p.68。</ref>。
 
   
  +
北欧神話に登場する[[ノルン]]や[[ディース]]といった存在は、いずれもヴァルキュリヤと同様に運命を司る超自然的存在であり、その関係性についても解釈がなされている。
== 概要 ==
 
  +
{{TOC limit}}
ワルキューレはおそらく[[人間]]の[[霊魂|魂]]が[[動物]]の姿をして現れる霊的な存在[[フィルギャ]]から派生したものと考えられ<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集 p.21(訳注108)</ref>、主神[[オーディン]]の命を受けて、[[ペーガソス|天馬]]に乗って戦場を駆け、[[戦死]]した勇士([[エインヘリャル]])を選びとって[[天上]]の[[宮殿]][[ヴァルハラ]]へと迎え入れる役割を持っていた。この勇士達は、[[ラグナロク]]での戦いに備えて、[[終末論|世の終わり]]まで武事に励むという。ヴァルハラにおいて、彼らをもてなすのもワルキューレの務めの一つである。
 
   
  +
== 語源と別称 ==
ワルキューレは[[天女]]のように[[ハクチョウ|白鳥]]の[[羽衣]]を持ち、男にこれを奪われるエピソードや<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集 p.162(「ブリュンヒルドの冥府への旅」6節)</ref>、これを身にまとうことで[[ハクチョウ|白鳥]]に[[変身]]する描写も登場する<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集 p.93(「ヴェルンドの歌」)</ref>。
 
  +
[[古ノルド語]]のvalkyrjaは、valr(戦場の死体)とkjósa(選ぶ)の2語から構成され、合わせて「死体を選ぶもの」を意味する。[[古英語]]の同根語にwælcyrgeがあり<ref name="BYOCK142-143">Byock (2005:142–143).</ref>、文献学者の[[ウラジーミル・オーレル]]は、これらから[[ゲルマン祖語]]の語形*wala-kuzjōnを[[再建]]した<ref name="OREL-442">Orel (2003:442).</ref>。ただし、古英語の単語が単に古ノルド語からの借用である可能性もある。
   
  +
古ノルド語の文献でヴァルキュリヤを指す他の語として、『[[オッドルーンの嘆き]]』にある「願いの乙女(óskmey)」や、『[[名の諳誦]]』にある「オージンの乙女(Óðins meyjar)」「ヴィズリルの乙女」「死の乙女(valmeyjar)」などがある。「願いの乙女」はおそらく、[[オーディン|オージン]]が持つ多くの異称の一つ「願いを叶えるもの(Óski)」と関連しており、オージンがヴァルホッルに死者たちを受け入れるということに言及したものと考えられる<ref name="SIMEK254+349">Simek (2007:254 and 349).</ref>。
本来、ワルキューレは9人いるといわれているが、伝承によって12人<ref>菅原、p.68(「ニャールのサガ」157章)</ref>、8人<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集 p.162(「ブリュンヒルドの冥府への旅」6節)</ref>と、人数に違いが見られる。また、[[サガ]]の中に王の娘がワルキューレであると紹介される下りが見られる<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』 p.93(「ヴェルンドの歌」)</ref><ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』 p.112(「ヒョルヴァルズの子ヘルギの歌」9節)</ref><ref>『エッダ 古代北欧歌謡集」 P.119、P.125(「フンディング殺しのヘルギの歌Ⅱ」4節、51節)</ref>。
 
   
  +
== 典拠 ==
<!--以下の記述は、出典がないため、いったんコメントアウトいたしました。
 
  +
=== 『古エッダ』 ===
  +
『[[古エッダ]]』では、『[[巫女の予言]]』『[[グリームニルの言葉]]』『[[ヴェルンドの歌|ヴォルンドの歌]]』『[[フンディング殺しのヘルギの歌 その一]]』『[[ヒョルヴァルズルの息子ヘルギの歌|ヒョルヴァルズの子ヘルギの歌]]』『[[フンディング殺しのヘルギの歌 その二]]』『[[シグルドリーヴァの言葉]]』にヴァルキュリヤが登場する。
   
  +
==== 『巫女の予言』と『グリームニルの言葉』 ====
戦勝に関わるため、[[ギリシャ神話]]の[[女神]][[ニーケー]]とも同一視される場合があり、後代には「[[英雄]]の前に現れる幻想的な[[恋人]]」という[[イメージ]]を与えられた。[[日本語]]では「戦乙女」や「戦女神」などともいい、一般には、[[鎧]]と[[羽根]]のついた[[兜]]で身を固め、[[槍]](もしくは[[剣]])と[[盾]]を持ち、[[翼]]の生えた[[ウマ|馬]]([[ペーガソス]])に乗る美しい戦乙女の姿で表される。
 
  +
[[ファイル:Hild,_Thrud_and_Hløkk_by_Frølich.jpg|サムネイル|ヴァルハラでエールを運ぶヒルド、スルーズ、フロック([[ローランス・フレーリク]]、1895年)]]
しかし、[[スカンディナヴィア半島|スカンジナビア半島]]では筋骨逞しい[[アマゾーン|アマゾネス]]のようなイメージがある。
 
  +
『[[巫女の予言]]』第30スタンザでは、[[ヴォルヴァ]](北欧における流浪の巫女)がオージンに、「英雄たちのもと」に乗り込まんとするヴァルキュリヤが遠くから来るのを「見た」と伝える。続けてヴォルヴァは、6人のヴァルキュリヤの名前を述べる。[[スクルド]](「負債」ないし「未来」)、[[スコグル]](「揺らすもの」)、[[グン]](「戦」)、[[ヒルド]](「争い」)、[[ゴンドゥル]](「杖を振るうもの」)、[[ゲイルスコグル]](「槍のスコグル」)である。その後に、今述べたのは「ヘリアンの娘たち、地上に馬をはしらせんとする」ヴァルキュリヤたちであると述べる<ref name="DRONKE15ORCHARD193-195">『エッダ 古代北欧歌謡集』p.12. ヴァルキュリアの名前については Orchard (1995:193–195).</ref>。
-->
 
[[ルーン文字]]で書かれたレォーク[[石碑]]などによると、「ワルキューレの馬」という言葉は一般的なイメージとは違い、[[オオカミ|狼]]の[[ケニング]]として使われている。戦死者たちの[[死骸]]に集まる[[オオカミ|狼]]の群れを[[モチーフ]]にしたものと考えられている。
 
   
  +
『[[グリームニルの言葉]]』では、拷問されたグリームニル(オージンの異相)が、小さな[[アグナル]]に向かって、[[フリスト]](震えるもの)と[[ミスト]](雲)というヴァルキュリヤが角杯を持ってくるだろうと語り、続いて、[[エインヘリャル]]に[[エール (ビール)|エール]]を注ぐ役目の11のヴァルキュリヤの名前を述べる。[[スケッギョルド]](「斧の時代」)、スコグル、ヒルド、[[スルーズ]](「力」)、[[フロック]](「騒音」ないし「戦闘」)、[[ヘルフィヨトゥル]](「軍勢の縛め」)、[[ゴッル]](「騒音」)、[[ゲイラホズ]](「槍の戦い」)、[[ランドグリーズ]](「楯を壊すもの」)、[[ラーズグリーズ]](「計画を壊すもの」)、[[レギンレイヴ]](「神々の娘」)である<ref name="LARRINGTON57ORCHARD193-195">Larrington (1999:57). ヴァルキュリアの名前については Orchard (1995:193–195).</ref>。
[[オーロラ]]は、[[オーディン]]の使者として夜空を駆けるワルキューレの[[鎧]]が煌いたものだと考えられていた。
 
   
  +
==== 『ヴォルンドの歌』 ====
[[ファイル:Ring28.jpg|thumb|right|200px|[[アーサー・ラッカム]]が描いた『指環』の挿絵より。ワルキューレの騎行。]]
 
  +
[[File:Valkyries with swan skins.jpg|サムネイル|羽衣を脱いだ3人のヴァルキュリヤ([[ジェニー・ナイストローム]]、1893年頃)]]
[[ファイル:Rhinegold and the Valkyries p 102.jpg|thumb|right|200px|同。ブリュンヒルデ。]]
 
  +
『[[ヴェルンドの歌|ヴォルンドの歌]]』の導入部の散文は、[[スラグフィズ]]、[[エギル]]、[[ヴェルンド|ヴォルンド]]の兄弟がウールヴダリル(狼の谷)と呼ばれる地に建てた家に住まう話を語るものである。ある朝早く、兄弟はウールヴスヤール(狼の湖)の畔で糸を繰る3人の女性に出会う。彼らはヴァルキュリヤで、「かたわらには白鳥の[[羽衣]]がおいてあ」った<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』p.93.</ref>。うち2人は[[フロドヴェール王]]の娘で、名は[[フラズグズ・スヴァンフヴィート]](白鳥の白)と[[ヘルヴォル・アルヴィト]](おそらく「全知」の意<ref name="ORCHARD83">Orchard (1997:83).</ref>)といった。もう一人は、[[ヴァランド]]の[[キャール王]]の娘で、名を[[オルルーン]](おそらく「エールの[[ルーン]]」の意<ref name="SIMEK251">Simek (2007:251).</ref>)といった。エギルがオルルーンを、スラグフィズがフラズグズを、ヴォルンドがヘルヴォルを連れ帰り、7つの冬の間一緒に暮らしたが、女たちはある日戦場へと飛び去って戻ってくることはなかった。エギルは雪靴を履いてオルルーンを探しに行き、スラグフィズもフラズグズを探しに出たが、ヴォルンドはウールヴダリルに留まった<ref name="LARRINGTON102">Larrington (1999:102).</ref>。
[[ファイル:Waltraute confronts.jpg|thumb|right|200px|同。ヴァルトラウテ(左)とブリュンヒルデ。]]
 
   
  +
==== 『フンディング殺しのヘルギの歌 その一』 ====
== ワルキューレのリスト ==
 
  +
[[ファイル:Helgi_Hundingsbane_and_Sigrún_by_Robert_Engels.jpg|サムネイル|フンディング殺しのヘルギとシグルーン([[ロバート・エンゲルズ]]、1919年)]]
{{main|北欧神話にみられるヴァルキュリヤの名前一覧}}
 
  +
『[[フンディング殺しのヘルギの歌 その一]]』は、フンディング殺しの英雄ヘルギが、死体の散らばるロガフィヨルの戦場のただ中に座っている場面から始まる。[[丘]]から光が輝き、その光から雷電が走った。空を駆けて兜をつけたヴァルキュリヤたちが現れる。腰まである鎖帷子は血にまみれており、その槍はまばゆく輝いていた。
  +
<blockquote class="">
  +
そのとき、ロガフィエルから光がさし、その光の中から閃光がひらめいた。……{{ruby|大空|ヒミンヴァンガル}}を兜も凛々しく……鎧は血しぶきで汚れ、槍先から光がきらめいた。<ref name="LARRINGTON116">『エッダ 古代北欧歌謡集』p.104.</ref>
  +
</blockquote>
  +
続くスタンザで、矢が降り注ぐ中、ヘルギはヴァルキュリヤたち(彼は「南の女神たち」と呼んだ)に、日が落ちたら兵を引き上げたらどうかと尋ねる。戦が終わると、馬に乗った[[シグルーン]](「勝利のルーン」の意<ref name="ORCHARD194">Orchard (1997:194).</ref>)というヴァルキュリヤが、自分は父ホグニに言われて、[[フニヴルング族]]の[[グランマル王]]の息子[[ホズブロッド]]と婚約させられたが、彼にその価値はないと思っていると述べる。ヘルギはフレカステインに大軍勢を集めてフニヴルング族に戦を仕掛け、婚約を避けたいシグルーンを助けた<ref name="LARRINGTON116-117">Larrington (1999:116–117).</ref>。詩の後半では、英雄[[シンフィヨトリ]]が[[グズムンド]]と罵り比べをする。シンフィヨトリは、グズムンドがかつて、「万物の父のところでも、災いを生む恐ろしい手に負えぬ魔女」であったことを嘲り、「お前のためにヴァルハラの戦士たちは戦い合わねばならなかったのだ」と付け加える<ref name="LARRINGTON119">『エッダ 古代北欧歌謡集』p.106.</ref>。詩には、「ヴァルキュリヤの空気のような海」という表現が霧を表すケニングとして用いられている<ref name="LARRINGTON120">Larrington (1999:120).</ref>。詩の終盤、ヴァルキュリヤたちは再び天から下り、今度はフレカステインで戦うヘルギを守護する。戦が終わると、ヴァルキュリヤたちはみな飛び去っていくが、シグルーンは残り、ともにいた狼たち(「女[[トロール|巨人]]の馬」)は死体を食べ尽くした。
  +
<blockquote class="">
  +
そのとき、天から兜も白く輝く者たちが下ってきて――槍の響きはいやます――王をば守った。そのとき、シグルーンはいった。――ヴァルキューレたちが飛びかい、フギンの餌を女巨人の馬が平らげた――<ref name="LARRINGTON121">『エッダ 古代北欧歌謡集』p.108.</ref>
  +
</blockquote>
  +
果たして戦争はヘルギの勝利に終わると、シグルーンはヘルギに、彼が偉大な支配者となると告げて宣誓をした<ref name="LARRINGTON122">Larrington (1999:122).</ref>。
   
  +
==== 『ヒョルヴァルズの子ヘルギの歌』 ====
=== 古エッダ ===
 
  +
[[ファイル:ValkyrieOnHorse.jpg|サムネイル|『ヴァルキリー』(コペンハーゲン、カステレット要塞チャーチル公園、[[ステファン・シンディング]]作、1908年)]]
* [[ブリュンヒルデ]] (Brynhildr) - 輝く戦い
 
  +
『[[ヒョルヴァルズルの息子ヘルギの歌|ヒョルヴァルズの子ヘルギの歌]]』には、次のような散文の語りがある。ノルウェー王[[ヒョルヴァルズ]]と[[スヴァーヴニル]]の[[シグルリン]]の間の息子である名無しの男が、[[墳丘墓]]の上に座りながら、9人のヴァルキュリヤが馬で駆けてくるのを見かける。その中の一人が特に人目を引いた。このヴァルキュリヤが[[エイリミ王]]の娘[[スヴァーヴァ]]であり、「戦で彼を守った」ことが後に語られる。ヴァルキュリヤは男に話しかけ、ヘルギ(「聖なるもの」の意<ref name="ORCHARD81">Orchard (1997:81).</ref>)という名を授ける。それまで一言も発しなかったヘルギは口を開き、ヴァルキュリヤを「輝く乙女」と呼んで、名前とともにいかなる贈り物をもらえるのか尋ねた上で、また贈り物は、自分と結婚しなければ受け取ることはできないと告げる。ヴァルキュリヤは、シガルスホルムに秘蔵された剣の中でも特に貴重な一本に覚えがあると述べ、その仔細を詳らかにする<ref name="LARRINGTON125">Larrington (1999:125).</ref>。詩の部分では、アトリが女[[巨人]][[フリームゲルズ]]と[[罵り比べ]](flyting)をする。フリームゲルズはアトリを罵る言葉の中で、ヘルギの周りで27人のヴァルキュリヤを見たと言い、特に美しい一人が一団を率いていたと述べる。
* [[スクルド]] (Sculd) - [[ノルン|運命の三女神]]の三女で未来を司る(古エッダにおける、ワルキューレの項目に出てくるスクルドは、ノルンとは、別人であるとの説がある)。
 
  +
<blockquote class="">
* スケグル (Scögul) - 戦
 
  +
二十七人の女がいたが、それに先駆けて、兜をかぶった輝く乙女がいた。馬どもはたてがみを振り、そのたてがみから、深い谷に露がおり、高い森には霰が降った。このため人間たちのところに豊年がやってくるのさ。わたしがみたものは何もかもいやなものばかりだったよ。<ref name="LARRINGTON128">『エッダ 古代北欧歌謡集』p.114.</ref>
* グン (Gunnr) - 戦争
 
  +
</blockquote>
* ヒルド (Hildr) - 戦い、勝利
 
  +
フリームゲルズが日光を浴びて石に変じてしまった後、散文の語りは、王となったヘルギがエイリミ王の元に向かい、娘スヴァーヴァとの結婚を求める場面に移る。ヘルギとスヴァーヴァは婚約し、お互いを心から愛した。スヴァーヴァはエイリミ王とともに暮らし、ヘルギは外に戦いに出た。ここでは、スヴァーヴァは「相変わらず」ヴァルキュリヤであったと付け加えられている<ref name="LARRINGTON129">『エッダ 古代北欧歌謡集』p.115.</ref>。詩は続き、さまざまな出来事が起こるが、その中でヘルギは戦場で受けた傷が元で死ぬ。詩は、ヘルギとスヴァーヴァは「生れ変わったといわれている」と締めくくられる<ref name="LARRINGTON130-131">『エッダ 古代北欧歌謡集』p.116.</ref>。
* ゲンドゥル (Gondur/Göndul) - 魔力をもつ者
 
* ゲイルスケグル (Geirscögul) - [[槍]]の戦
 
* フリスト (Hrist) - 轟かす者、援軍
 
* ミスト (Mist) - [[霧]]
 
* スケッギォルド (Sceggiöld) - [[斧]]の時代
 
* スルーズ (Þrúðr) - トールとシフの娘 強き者
 
* フレック (Hlöcc) - [[武器]]をがちゃつかせる者
 
* ヘルフィヨトル (Herfiötur) - 軍勢の戒め
 
* ゲル (Göll) - 騒がしき者
 
* ゲイレルル (Geirölul) - 槍を持って進む者
 
* ランドグリーズ (Randgrið) - [[盾]]を壊す者
 
* ラーズグリーズ (Ráðgrið) - 計画を壊す者
 
* レギンレイヴ (Reginleif) - [[神]]々の残された者
 
* ヘルヴォル (Hervor) - 軍勢の守り手
 
* アルヴィト (Alvitr) - 全知
 
* エルルーン (Ölrun) - [[ビール]]の[[ルーン文字]]に通じる者
 
   
  +
==== 『フンディングル殺しのヘルギの歌 その二』 ====
=== 新エッダ ===
 
  +
[[ファイル:Helgi_und_Sigrun_by_Johannes_Gehrts.jpg|サムネイル|『ヘルギとシグルーン』([[ヨハンズ・ゲールツ]]、1901年)]]
* [[ロタ (北欧神話)|ロタ]] (Róta)
 
  +
『[[フンディングル殺しのヘルギの歌 その二]]』の冒頭、散文で語られることには、[[シグムンド]]王([[ヴォルスング]]の息子)と妻[[ボルグヒルド]]には一人息子がおり、名をヘルギといった。これはヒョルヴァルズの息子ヘルギにちなんで付けられた名前である<ref name="LARRINGTON132">Larrington (1999:132).</ref>。第4スタンザでヘルギがフンディング王を殺した後、ヘルギは逃げて、海岸で屠った牛の生肉を食べ、そしてシグルーンに出会う。[[ホグニ]]王の娘シグルーンは「ヴァルキュリヤになり、空と海を駆けた」と語られ、またスヴァーヴァの生まれ変わりであるという<ref name="LARRINGTON133">『エッダ 古代北欧歌謡集』p.119.</ref>。第7スタンザには、シグルーンが「[[グン]]の姉妹の雁に餌を与える」という表現がある。グンの姉妹とはすなわちヴァルキュリヤであり、その雁というのは[[ワタリガラス]]で、戦場に残された死体を食べさせるという意味である<ref name="LARRINGTON133+281">Larrington (1999:133 and 281).</ref>。
   
  +
第18スタンザの後では、ヘルギの大船団がフレカステインに向かう途中で大嵐に遭ってしまう。1隻を稲妻が打った。9人のヴァルキュリアが空を飛ぶのが見え、その中にはシグルーンがいた。嵐は弱まり、船団は無事に接岸する<ref name="LARRINGTON135">Larrington (1999:135).</ref>。ヘルギは戦で死ぬが、シグルーンに会うためにヴァルホッルから墓へと一度戻ってくる。詩の最後では、後にシグルーンは嘆きのあまり死んだと語られる。エピローグでは、「今は、老婆のたわごとだと思われている」が、「人は生れ変わるもの、と昔は信じられてい」て、「ヘルギとシグルーンは」また別のヘルギとヴァルキュリア、つまりハッディンギャルの勇士ヘルギとハルフダンの娘[[カーラ]]に「生れ変わったといわれている」と語られる<ref name="LARRINGTON141">『エッダ 古代北欧歌謡集』p.125.</ref>。また、この2人の話は(現存しない)『[[カーラの歌]]』で語られると述べられる。
=== ワーグナーの『ニーベルングの指環』 ===
 
『[[ニーベルングの指環]]』は[[リヒャルト・ワーグナー|ワーグナー]]の代表作の一つであり、15時間にも及ぶ巨大な楽劇である。北欧神話をモチーフとしており、序夜に続く第一夜はまさしく「ワルキューレ」と題されており、以下のワルキューレが登場する。
 
   
  +
==== 『シグルドリーヴァの言葉』 ====
ヴォータン([[オーディン]])とエルダの娘
 
  +
[[ファイル:Ring48.jpg|サムネイル|異教の祈りを唱えるシグルドリーヴァ([[アーサー・ラッカム]]、1911年)]]
* [[ブリュンヒルデ]] ({{lang|de|Brünnhilde}})
 
  +
『[[シグルドリーヴァの言葉]]』の導入部では、英雄[[シグルズ]]がヒンダルフィヨルの山を登り、「[[フランク]]の地」に向かって南進する場面が、散文で描かれる。山でシグルズは「天にまで輝き映え」る「火が燃えているような大なる光焔」を見る。近づいてみると、そこには垂れ幕はためく盾の壁があった。中に入ったシグルズは、一人の戦士が横たわっているのを見る。完全武装で眠っているようである。シグルズが兜を脱がすと、女性であった。[[胴鎧]]は体に張り付いているのではないかと思われるほどきつく、シグルズは名剣[[グラム (北欧神話)|グラム]]で胴鎧を首から袖の方へ切り裂いて外した<ref name="THORPE180">『エッダ 古代北欧歌謡集』p.143.</ref>。
* ゲルヒルデ (Gerhilde)
 
* オルトリンデ (Ortlinde)
 
* ヴァルトラウテ (Waltraute)
 
* シュヴェルトライテ (Schwertleite)
 
* ヘルムヴィーゲ (Helmwige)
 
* ジークルーネ (Siegrune)
 
* グリムゲルデ (Grimgerde)
 
* ロスヴァイセ ({{lang|de|Roßweiße}})
 
   
  +
女性は目覚め、起き上がると、シグルズを見た。ここからの2スタンザは二人の会話である。2つ目のスタンザで、その女性が話すことには、大神[[オージン]]によって魔法で醒めない眠りをかけられ、長く眠っていたという。シグルズが名前を尋ねると、女性は言葉を忘れなくなる[[蜂蜜酒|蜜酒]]の角杯をシグルズに与えた。女性は続く2スタンザで異教の祈りを唱えた。散文部分で、この女性はシグルドリーヴァという名前のヴァルキュリヤであると説明される<ref name="LARRINGTON166-167">Larrington (1999:166–167).</ref>。
== 出典 ==
 
  +
{{Reflist}}
 
  +
シグルドリーヴァはシグルズに、戦った2人の王の話をした。曰く、オージンはその片方、兜のグンナルに勝利を約束したが、シグルドリーヴァはオージンの意に背きグンナルを倒してしまった。オージンは罰として眠りの茨で彼女を刺し、「今後は戦で勝利を決してうることはな」いと言って、結婚を命じた。シグルドリーヴァは、恐れを知らぬ男としか結婚しないとオージンに返答したという。シグルズはシグルドリーヴァに全世界の知恵を教えてくれるよう頼む。すると彼女は、[[ルーン文字|ルーン]]の書き方、魔術、予言の知識をシグルズに与えた<ref name="LARRINGTON167">『エッダ 古代北欧歌謡集』p.144.</ref>。
  +
  +
=== 『スノッリのエッダ』 ===
  +
[[13世紀]]に[[スノッリ・ストゥルルソン]]によって書かれた『[[スノッリのエッダ|エッダ]]』にも、広くヴァルキュリヤに関する言及がある。
  +
  +
==== 『ギュルヴィたぶらかし』 ====
  +
[[ファイル:Valkyrie_(1834-1835)_by_H._W._Bissen.jpg|サムネイル|『ワルキューレ』([[ヘルマン・ヴィルヘルム・ビッセン]]、1835年)]]
  +
『スノッリのエッダ』でヴァルキュリヤの語が最初に現れるのは、『[[ギュルヴィたぶらかし]]』の36章である。[[ハール]]という王冠をかぶった人物が、[[ギュルヴィ王]]が変装した[[ガングレリ]]に、ヴァルキュリヤの仕事を教え、数柱の女神についても話した。ハール曰く、「ヴァルハラにはべって、飲物を運び、食卓や酒器を受けもつものがいる」といい、『[[グリームニルの言葉]]』のスタンザから引用した名前のリストを読み上げた上で、「これらはヴァルキューレと呼ばれている。オーディンが彼らをすべての戦場につかわし、彼らは人々の死の色を見て取り、勝敗を決めるのだ」と述べる<ref name="BYOCK44-45">『エッダ 古代北欧歌謡集』p.253.</ref>。さらに、[[グン]]、[[ロータ]]、「最も若き[[ノルン]]」[[スクルド]]の3人の名前を付け加え、「たえず馬にまたがって戦死者を選び、戦の決着をつける」とした<ref name="BYOCK44-45" />。49章では、オージンと妻[[フリッグ]]が死んだ息子[[バルドル]]の弔いに訪れたとき、ヴァルキュリヤとワタリガラス([[フギンとムニン]])がともにあったことが語られる。
  +
  +
==== 『詩語法』 ====
  +
[[スカルド詩]]の技法を伝える『[[詩語法]]』全体を通して、ヴァルキュリヤへの言及が見られる。2章では、10世紀の詩人[[ウールヴ・ウッガソン]]の『[[家の頌歌]]』という作品から引用がなされる。その詩では、新しく建てられた館で催されたバルドルの葬式の宴会の場面が描かれ、オージンに伴うヴァルキュリヤとワタリガラスについても触れられている。<blockquote class="">
  +
: There I perceive valkyries and ravens,
  +
: accompanying the wise victory-tree [Odin]
  +
: to the drink of the holy offering [Baldr's funeral feast]
  +
: Within have appeared these motifs.<ref name="FAULKES68">Faulkes (1995:68).</ref>
  +
</blockquote>2章の続きでは、10世紀の詠み人知らずの詩『[[エイリークの言葉]]』からの引用がなされる。<blockquote class="">
  +
: What sort of dream is that, Odin?
  +
: I dreamed I rose up before dawn
  +
: to clear up Val-hall for slain people.
  +
: I aroused the Einheriar,
  +
: bade them get up to strew the benches,
  +
: clean the beer-cups,
  +
: the valkyries to serve wine
  +
: for the arrival of a prince.<ref name="FAULKES69">Faulkes (1995:69).</ref>
  +
</blockquote>31章では、女性に言及する際の詩語が示されるが、「アースニヤ([[アース神族]]の女神)、ヴァルキュリヤ、[[ノルン]]、あるいは[[ディース (北欧神話)|ディース]]といった言葉も用いられる」とある<ref name="FAULKES94">Faulkes (1995:94).</ref>。41章では、英雄[[シグルズ]]が山の上で出会った眠る女性を目覚めさせたというエピソードが語られ、兜のヒルドと名乗った「彼女は[[ブリュンヒルド]]として知られるヴァルキュリヤである」と述べられる<ref name="FAULKES1022">Faulkes (1995:102).</ref>。
  +
  +
48章では、「武器や盾、オージンやヴァルキュリヤや将軍たちや彼らのぶつかり合いやその喧騒」、すなわち戦に関する詩語が挙げられる。その具体例として、さまざまなスカルド詩人がヴァルキュリヤの名前を使った例が続けて述べられる。[[ソルビョルン・ホルンクローヴィ]]は「スコグルのざわめき」に「戦場」の意味をもたせ、[[ベルシ・スカールドトルフソン]]は「グンの火」で「剣」、「フロックの雪」で「戦い」を指した。[[エイナル・スクーラソン]]は「ヒルドの帆」で「盾」を、「ゴンドゥルのぶつかり合う風」で「戦い」を表し、[[エイナル・スカーラグラム]]も「ゴンドゥルのざわめき」を用いている。49章では、武器や鎧に関する情報が示されるが、ここでは「死の乙女(valmeyjar)」の語が使われるとある<ref name="FAULKES117-119">Faulkes (1995:117–119).</ref>。57章では、アース神族の女神が列挙される中で、「オージンの乙女」すなわちヴァルキュリヤの名前を挙げる節がある。そこでは、[[ヒルド]]、[[ゴンドゥル]]、[[フロック]]、[[ミスト]]、[[スコグル]]に加えて、[[フルンド]]、[[エイル]]、[[フリスト]]、スクルドが挙げられている。この節には「運命を定める彼らは[[ノルン]]と呼ばれる」との注釈がある<ref name="FAULKES157">Faulkes (1995:157).</ref>。
  +
  +
写本によっては『詩語法』の中に『[[名の諳誦]]』という節があり、ここで29人のヴァルキュリヤの名前が列挙される。第1スタンザでは、フリスト、ミスト、[[へリャ]]、フロック、[[ゲイラヴォル]]、[[ゴッル]]、[[ヒョルズリムル|ヒョルスリムル]]、[[グズ]]、[[ヘルフョルトラ]]、スクルド、[[ゲイロヌル]]、スコグル、[[ランドグリーズ]]、第2スタンザでは、[[ラーズグリーズ]]、ゴンドゥル、[[スヴィプル]]、[[ゲイルスコグル]]、ヒルド、[[スケッギョルド]]、フルンド、[[ゲイルドリヴル]]、ランドグリーズ、[[スルーズ]]、[[レギンレイヴ]]、[[スヴェイズ]]、[[ソグン]]、[[ヒャルムスリムル]]、[[スリマ]]、[[スカルモルド]]が挙げられている<ref name="JÓNSSON678">Jónsson (1973:678).</ref>。
  +
  +
=== 『大鴉の言葉』 ===
  +
[[ファイル:Valkyrie_and_raven.jpg|サムネイル|ワタリガラスと話すヴァルキュリヤ(木版画、[[ジョーゼフ・スウェイン]]彫、[[フレデリック・サンディ]]絵、1862年)]]
  +
一般には[[9世紀]]に[[ソルビョルン・ホルンクローヴィ]]によって書かれたとされる断片的な[[スカルド詩]]である『[[大鴉の言葉]]』は、一人のヴァルキュリヤと一羽の[[ワタリガラス]]の会話を中心に据え、主にノルウェー王[[ハーラル1世 (ノルウェー王)|ハーラル1世]]の生涯と事績を物語るものである。詩は、ハーラル美髪王の事績を詠む詩人のために、貴人たちに静まるよう呼びかける場面から始まる。「嘴の大きなワタリガラス」と話す、「金髪」で「腕の白い」「賢き」乙女のことをみな聞いたことがあるだろうと、語り手は述べる。そのヴァルキュリヤは自らの賢さを頼むところ厚く、鳥の言葉が分かり、さらに白い喉と輝く眼を持ち、男の中で楽しみを覚えないと語られる。<blockquote class="">
  +
: Wise thought her the valkyrie; were welcome never
  +
: men to the bright-eyed one, her who the birds' speech knew well.
  +
: Greeted the light-lashed maiden, the lily-throated woman,
  +
: The [[ユミル|hymir]]'s-skull-cleaver as on cliff he was perching.
  +
</blockquote>美しいと描写されたそのヴァルキュリヤは、血に塗れ死体をついばむワタリガラスに話しかける。<blockquote class="">
  +
: "How is it, ye ravens—whence are ye come now
  +
: with beaks all gory, at break of morning?
  +
: Carrion-reek ye carry, and your claws are bloody.
  +
: Were ye near, at night-time, where ye knew of corpses?"<ref name="HOLLANDER54">Hollander (1980:54).</ref>
  +
</blockquote>黒いワタリガラスは身を震わせ、卵から孵った頃から我々はハーラルに付き従っていると答える。ヴァルキュリヤがハーラルの事績をあまり知らないようだったのでワタリガラスは驚き、数スタンザに渡ってハーラルの行いを語る。第15スタンザで、ハーラルに関してヴァルキュリヤが質問し、ワタリガラスがそれに答える質疑応答の様式となり、詩が終わるまで続く<ref name="HOLLANDER54-57">Hollander (1980:54–57).</ref>。
  +
  +
=== 『ニャールのサガ』 ===
  +
[[ファイル:Henry_De_Groux001.jpg|サムネイル|『ワルキューレの騎行』([[アンリ・ド・グルー]]、1890年頃)]]
  +
『[[ニャールのサガ]]』157章では、[[ドッルズ]]という男が、聖金曜日に[[ケイスネス|カタネス]]で、馬に乗って[[石室]]に向かう12人の人々を見た話が語られる。石室に入っていった彼らをドッルズは見失ってしまうが、石室の壁の割れ目から中を除くと、そこには女性たちがいて、[[織機]]のようなものを組み立てていた。それはなんと、男の首を重しに、はらわたを縦糸と横糸に、剣を杼にして、糸車は矢で作られていた。彼女たちは歌を歌っており、ドッルズが覚えたそれは『[[槍の歌]]』と呼ばれている<ref name="HOLLANDER66">Hollander (1980:66).</ref>。
  +
  +
この歌は11のスタンザからなり、その中で、ヴァルキュリヤたちが布を織りながら、[[クロンターフの戦い]]で誰が死ぬのかを選んでいた。歌では、[[ヒルド]]、[[ヒョルスリムル]]、[[サングリーズ]]、[[スヴィプル]]、[[グズ]]、[[ゴンドゥル]]の名前が示される。第9スタンザにはこうある。<blockquote class="">
  +
: Now awful it is to be without,
  +
: as blood-red rack races overhead;
  +
: is the welkin gory with warriors' blood
  +
: as we valkyries war-songs chanted.<ref name="HOLLANDER68">Hollander (1980:68).</ref>
  +
</blockquote>詩の終盤、ヴァルキュリヤは「鞍なき馬に跨りて我らは疾く駆け出さん、しかして剣を掲げ戦うべし」と歌い、織機を粉々に壊してしまう。ドッルズが壁の割れ目から離れて帰途につくと、女たちは馬を駆って、6人は北に、もう6人は南へと去った<ref name="HOLLANDER662">Hollander (1980:66).</ref>。
  +
  +
=== 『ファグルスキンナ』 ===
  +
[[ファイル:Heimdallr_and_valkyries_by_Frølich.jpg|サムネイル|死者を運ぶ途中で[[ヘイムダル]]に出会うヴァルキュリヤたち([[ローランス・フレーリク]]、1906年)]]
  +
『[[ファグルスキンナ]]』の第8章では、[[グンヒルド|王母グンヒルド]]が、夫である[[エイリーク1世 (ノルウェー王)|血斧王エイリーク]]の死後に詩を詠ませたことが語られる。『[[エイリークルの言葉|エイリークの言葉]]』として知られるこの詩は10世紀以降の作で、作者は不明である。エイリークと五人の王が死後ヴァルホッルにたどりつくさまを描くものである。詩は、オージンの台詞から始まる。<blockquote class="">
  +
: 'What kind of a dream is it,' said Óðinn,
  +
: in which just before daybreak,
  +
: I thought I cleared Valhǫll,
  +
: for coming of slain men?
  +
: I waked the Einherjar,
  +
: bade valkyries rise up,
  +
: to strew the bench,
  +
: and scour the beakers,
  +
  +
: wine to carry,
  +
: as for a king's coming,
  +
: here to me I expect
  +
: heroes' coming from the world,
  +
: certain great ones,
  +
: so glad is my heart.<ref name="FINLAY58">Finlay (2004:58).</ref>
  +
</blockquote>
  +
この音が轟くのはどこからか、ヴァルホッルの長椅子がきしんでいる、まるで[[バルドル]]が帰ってきたとでもいうかのように、何千人もが動いているようだ、と[[ブラギ]]が言うと、オージンは答えた。お前もよく知っているだろう、あれはじきにここに着く血斧王エイリークを迎える音だ、と。本当に彼であれば、英雄[[シグムンド]]や[[シンフィヨトリ]]が彼に挨拶するだろうとオージンは述べる<ref name="FINLAY59">Finlay (2004:59).</ref>。
  +
  +
=== 『ヘイムスクリングラ』 ===
  +
[[ファイル:The_Valkyrie's_Vigil.jpg|サムネイル|寝ずの番をするヴァルキリー([[エドワード・ロバート・ヒューズ]]、1906年)]]
  +
『[[ヘイムスクリングラ]]』の最後の方に収められた『[[肩広のホーコン王のサガ]]』には、10世紀のスカルド詩人である[[剽窃者エイヴィンド]]の『[[ハーコンの言葉]]』が載っている。サガはノルウェー王[[ハーコン1世]]の戦死を語るもので、彼は、[[キリスト教徒]]でありながら「異教徒の中で」死ぬがゆえに「ふさわしいと思う場所に埋葬してくれ」と頼んだと伝える。ハーコンは自らが生まれた石の板の上で倒れるやいなや、友や仲間からその死を惜しまれた。友人はその遺骸を北[[ホルダラン県|ホルダラン]]に運び、武装させたまま副葬品なく巨大な塚に埋葬したという。続いて、「異教徒の習慣に従い墳墓には言葉がかけられ、彼らは王をヴァルホッルへと送り出した」<ref name="HOLLANDER124-125">Hollander (2007:124–125).</ref>という記述がある。『ハーコンの言葉』はその後に置かれている。
  +
  +
『ハーコンの言葉』において、[[オージン]]は二人のヴァルキュリヤ、[[ゴンドゥル]]と[[スコグル]]を送り出し、ヴァルハラに住まうべき者を「諸王の血族から見繕う」よう命じる。戦いを意味する「スコグルの嵐」というケニングを用いて描写される、大勢が死ぬ大きな戦い([[フィチヤールの戦い]])が起こる。ハーコンとその兵は戦死するが、そのとき、槍の柄に寄りかかるゴンドゥルの姿を見る。「ハーコンよ、神々の配下はさらに栄えよう。汝が聖なる神の王の御下に住まうことを命じられるがゆえに」とゴンドゥルが告げると、ハーコンはそれを聞いた。ヴァルキュリヤは「兜と盾を身に着け、青毛の馬に勇ましく跨る」姿として描かれる<ref name="HOLLANDER125">Hollander (2007:125).</ref>。続いてハーコンとスコグルの短い会話がなされる。<blockquote class="">
  +
: ''Hákon said:''
  +
: "Why didst Geirskogul grudge us victory?
  +
: though worthy we were for the gods to grant it?"
  +
: ''Skogul said:''
  +
: "'Tis owing to us that the issue was won
  +
: and your foemen fled."<ref name="HOLLANDER126">Hollander (2007:126).</ref>
  +
</blockquote>スコグルは、「神の王が住まう緑の家に」駆け戻り、王がヴァルホッルに来たる旨をオージンに伝えに上がると述べる。詩は続き、ハーコンはヴァルハラの[[エインヘリャル]]の一員となって大狼[[フェンリル]]との戦いを待つ<ref name="HOLLANDER126-127">Hollander (2007:126–127).</ref>。
  +
  +
=== ラグンヒルド・トレガガースの呪文 ===
  +
[[1324年]]に[[ノルウェー]]の[[ベルゲン]]で開かれた魔女裁判では、被告である[[ラグンヒルド・トレガガース]]が前夫バールドと別れるために使った呪文が記録されている。この呪文には[[ゴンドゥル]]の名前が含まれている。
  +
<blockquote class="">
  +
: I send out from me the spirits of (the valkyrie) Gondul.
  +
: May the first bite you in the back.
  +
: May the second bite you in the breast.
  +
: May the third turn hate and envy upon you.<ref name="MACLEOD37">MacLeod (2006:37).</ref>
  +
</blockquote>
  +
  +
== 考古学的記録 ==
  +
  +
=== ルーン石碑 ===
  +
[[ファイル:Rökstenen.jpg|サムネイル|レーク石碑]]
  +
ヴァルキュリヤの語は[[ルーン石碑]]の碑文中にも確認できる。[[スウェーデン]]の[[エステルイェートランド地方]]にある[[9世紀]]初頭のレーク石碑と、[[エーランド島]]にある[[10世紀]]のカルレヴィ石碑が代表である。後者には[[スルーズ]]の名前がある<ref name="MACLEOD37" />。レーク石碑では、「ヴァルキュリヤの馬」というケニングが狼を指して用いられている。
  +
<blockquote class="">
  +
: That we tell the twelfth, where the horse of the Valkyrie [literally "the horse of Gunnr"] sees food on the battlefield, where twenty kings are lying.<ref name="ANDRÉN11">Andrén (2006:11).</ref>
  +
</blockquote>
  +
[[ノルウェー]]の[[ベルゲン]]で見つかった[[ブリッゲン碑文]]の中に、[[14世紀]]ごろのものと思われる「ヴァルキュリヤの棒」と呼ばれるものがある。この棒には[[ルーン文字]]で呪文が刻まれている。呪文では、「癒やしのルーン」と「助力のルーン」を、[[エルフ]]に対しては1回、[[トロール|トロル]]に対しては2回、[[霜の巨人]]に対しては3回刻む、と書かれており、その後にヴァルキュリヤの語が登場する。
  +
<blockquote class="">
  +
: Against the harmful ''skag''-valkyrie,
  +
: so that she never shall, though she never would –
  +
: evil woman! – injure (?) your life.<ref name="MACLEOD34-35">MacLeod (2006:34–35).</ref>
  +
</blockquote>
  +
この文は、「汝に横暴な堕落と耐えられぬ欲望を送らん、汝に苦痛が降らんことを。汝座ることなかれ、眠ることなかれ。……そして我が事の如く我を愛せよ」と続く。[[ミンディ・マクラウド]]と[[バーナード・ミーズ]]によれば、「優しげな表現から突然に打って変わって、苦痛と不運を与えよという。これはおそらく、ヴァルキュリヤに対してではなく、呪文の受け手に対してのもの」であり、最後の行は「愛する人を守るように意図されたひねくれた呪文」であるとしている<ref name="MACLEOD34-37">MacLeod (2006:34–37).</ref>。
  +
  +
マクラウドとミーズは、この呪文の最初の行が『[[シグルドリーヴァの言葉]]』で[[ブリュンヒルド|シグルドリーヴァ]]が授けるルーンの教えと一致していると述べている。skagの語の意味ははっきりしないが、『[[フンディングル殺しのヘルギの歌 その一]]』で[[シンフィヨトリ]]が[[グズムンド]]をけなす "skass-valkyrie" という言葉との関連があると考えられる。マクラウドとミーズは、この語を「超自然的に送り出されるもの」といった意味であろうと考え、ラグンヒルド・トレガガースの呪文においてヴァルキュリヤが「放たれる」と表現されていることとのつながりを指摘している<ref name="MACLEOD34-37" />。
  +
  +
=== その他の考古学的記録 ===
  +
長羽織を纏って[[ポニーテール]]にまとめた髪を背に流し、角杯を持った女性を描いた、[[ヴァイキング]]時代の様式で作られた装飾品が[[スカンディナヴィア]]中から発見されている。これらの人物は一般にヴァルキュリヤないし[[ディース (北欧神話)|ディース]]を描いたものと考えられている。ミンディ・マクラウドとバーナード・ミーズによれば、ヴァイキング時代にはこういった装飾品に「守りの力があると考えられていた」ため、[[お守り|魔除け]]として墓に置かれたと想定されるという<ref name="SILVERFIGURES">Orchard (1997:172) and Lindow (2001:96).</ref>。
  +
  +
[[絵画石碑]]にもヴァルキュリヤと思われる図像が残されている。[[スウェーデン]]の[[ゴットランド島|ゴトランド島]]にある[[シェングヴィーデ石碑]]には、8本足の馬に跨る人物に女性が挨拶している場面が描かれている。この馬はオージンの8本足の馬[[スレイプニル]]、女性はヴァルホッルにはべるヴァルキュリヤと思われる<ref name="LINDOW276">Lindow (2001:276).</ref>。11世紀の[[シグルズ石碑]]の一つには、角杯を持つ女性ともう一人の人物が描かれており、これは[[シグルズ]]に角杯を手渡す[[ブリュンヒルド|シグルドリーヴァ]]であると解釈されている<ref name="WESSEN621">Wessén & Jansson (1953–58:621).</ref>。
  +
  +
2013年、[[デンマーク]]のハールヴィで、アマチュアの考古学者3人が800年頃の小さな像を発掘した。この小像は、ベストに似た袖のない長い服に刺繍の入った前掛けを着た、ポニーテールの女性を象っている。腕が自由であることは、手に持つ剣と盾で戦えることを示しているようである。考古学者モーゲンス・ボー・ヘンリクセンは、「間違いなくこの像は、700年頃にスウェーデンの石碑に描かれたものと同じく、サガに登場するオージンのヴァルキュリヤを象っている」と述べている<ref name="KENNEDY-2013">Kennedy (2013).</ref>。
  +
<gallery mode="packed" widths="200px" heights="160px">
  +
File:Valkyrie on horse and giving valkyrie.jpg|ヴァルキュリヤを象ったヴァイキング時代の装飾品。典型的なヴァルキュリアの姿をした女性(右)と馬に跨り槍と剣を持つ女性(左)
  +
File:Valkyrie.jpg|[[ビルカ]]で発掘された、角杯を持つ女性の像(銀製)
  +
File:Silver figure with hair and silver figure with horse.jpg|前を向いて髪を触る女性の像(左)と、羽のついた槍を佩き手に剣を持って馬に跨る女性の像(右)
  +
File:Arrival at Valhalla.jpg|8本足の馬に跨る人物に角杯を手渡す女性の像([[シェングヴィーデ石碑]])
  +
File:U 1163, Drävle (Sigrdrífa).JPG|[[ルーン石碑]]に刻まれた、角杯を持つシグルドリーヴァ
  +
</gallery>
  +
  +
== 学説 ==
  +
=== ヴァルキュリヤの起源と発展 ===
  +
[[ファイル:Die_Nornen_(1889)_by_Johannes_Gehrts.jpg|サムネイル|『ノルンたち』([[ヨハンズ・ゲールツ]]、1889年)]]
  +
[[ゲルマン人]]の信仰から[[北欧神話]]への系譜の中で、ヴァルキュリヤという概念がどのように誕生し発展してきたかについては、さまざまに論じられてきた。[[ルドルフ・ジメック]]は、ヴァルキュリヤがもともとは「戦場で死んだ戦士がなる死者たちの[[精霊]]」として捉えられており、「[[ヴァルハラ|ヴァルホッル]]の観念が戦場から戦士の楽園へと変じる」中でヴァルキュリヤの解釈も変わったのだと論じ、ヴァルキュリヤと[[オーディン|オージン]]の強い結びつきは、初期の「死の精霊」としての役割の段階から存在したと述べている。もともとのイメージは「ヴァルホッルのエインヘリャルのように暮らしたというアイルランドの女戦士、いわゆる[[楯の乙女|盾乙女]]によって上書きされ」たとジメックは主張している。ヴァルキュリヤは「死の精霊としての性質が薄れて、より人間らしくなり、人と恋に落ちることすら可能にな」ることによって、英雄詩の中で人気のある登場人物となりえたということになる。またジメックは、ヴァルキュリヤの名前の大部分が戦争に関する要素であることにも言及し、これらの名前は古いものではなく、「ほとんどが真の伝承というよりも詩想として生まれたものである」と述べている<ref name="SIMEK349" />。
  +
  +
マクラウドとミーズは、「死体を選ぶというヴァルキュリヤの役割は、後世の北欧神話の中で、人の運命を決めるという超自然的存在である[[ノルン]]と混同されるようなった」と論じている<ref name="MACLEOD39">MacLeod (2006:39).</ref>。
  +
  +
[[H・E・デイヴィッドソン]]は、「何世代もの詩人や語り部によって顕著に洗練されたヴァルキュリヤ像が作り上げられてきたが、その中にはいくつかの観念を見て取ることができる。まず人の運命を定めるという[[ノルン]]に似た部分。次に呪文によって戦場で男たちを守る[[ヴォルヴァ|予言の巫女]]。そして若者に加護を与え幸運をもたらす、特定の一族に憑いた強力な[[守護霊]]。最後に、黒海のあたりで実際に存在したとされる男のように鎧に身を包み戦場で戦う女たち」であると述べ、加えて、そこには「戦の後に捕虜を処刑する儀式を執り行う戦争の神の巫女」の記憶もあるだろうとしている<ref name="DAVIDSON61">Davidson (1990:61).</ref>。
  +
  +
デイヴィッドソンは、ヴァルキュリヤが字義通りには「死者を選ぶもの」という意味であることを強調している。[[ウルフスタン]]の『イングランド人への説教』にある「罪人、魔女、悪人のブラックリスト」の中で言及される人々を比較検討して、その中の「死者を選ぶもの({{Lang|ang|wælcyrge}})」があくまで「人間であり、ウルフスタンが神話上の人物をここに含めたとは考えがたい」と結論づけている。またデイヴィッドソンは、[[アラブ人|アラブ]]の旅行家[[アフマド・イブン・ファドラーン]]が詳細に記録した、[[ルーシ人|ルーシ]]による[[ヴォルガ川]]での[[船葬墓|船葬]]の描写の中に、「見るもおぞましい巨躯の[[フン族|フン]]の老女」(ファドラーンは「死の天使」と呼んだ)が、娘と思われる二人の女を連れ、[[奴隷]]の少女の処刑を指揮していたというものがあることを指摘している。「おぞましい仕事のせいで正気を失っていたに違いない女性について、おかしな伝説が生まれてもさほど驚くには値しないだろう。戦争で捕虜になるものもいるという明らかな仮定はさておいても、どの囚人を殺すかは[[くじ]]で決められるから、神が巫女の仲介を通して犠牲者を『選ぶ』という考えは一般的であったはずである」。デイヴィッドソンは、「早い段階」からゲルマン人は、「獰猛な女性の霊が戦の神の命令を執行し、不和を掻き立て、戦に加わり、死体を取っては貪り食う」と信じていたと述べている<ref name="DAVIDSON61-62">Davidson (1990:61–62).</ref>。
  +
  +
=== ヴァルキュリヤの名前 ===
  +
{{Main2|名前と語義の一覧|北欧神話にみられるヴァルキュリヤの名前一覧}}
  +
『[[古エッダ]]』の『[[グリームニルの言葉]]』および『[[スノッリのエッダ]]』の『[[詩語法]]』1章『[[名の諳誦]]』でヴァルキュリヤの名前が列挙されているが、『[[フンディングル殺しのヘルギの歌 その1]]』『その2』に登場する[[シグルーン]]など、これらに含まれないものもある。ヴァルキュリヤの名前の多くは戦、特にオージンとの関連の深い武器である槍と関連付けられている<ref name="DAVIDSON96">Davidson (1988:96).</ref>。ヴァルキュリヤの名前は特に個人を指すものではなく、むしろ戦の女神としての特性を記述するものとして、スカルド詩人たちによって創造されたものであるという主張もある<ref name="DAVIDSON+SIMEK">Davidson (1988:96–97) やSimek (2007:349)など。</ref>。
  +
  +
実際、名前が役割や能力を表しているようなヴァルキュリヤもいる。[[へリャ]]という名前は、187年の石碑に名前のある女神[[ハリアサ]]とのつながりを示すものと解釈されている<ref name="SIMEK143AND131">Simek (2007:143). For Hariasa, Simek (2007:131).</ref>。[[ヘルフィヨトル]]は、足かせを置く能力を示すものと解釈されている<ref name="SIMEK142">Simek (2007:142).</ref>。[[スヴィプル]]は、彼女が運命([[ウィルド]]や[[オルログ]]とよばれるもの)に対して影響力を持つということを説明したものであろう<ref name="SIMEK308">Simek (2007:308).</ref>。
  +
  +
=== フレイヤとフォールクヴァング ===
  +
[[ファイル:Freya_by_C._E._Doepler.jpg|サムネイル|『フレイヤ』([[エミール・ドプラー]]、1882年)]]
  +
女神[[フレイヤ]]と彼女が治める死後の領域[[フォールクヴァング]]もまた、ヴァルキュリヤと関連していると論じられてきた。[[ブリット=マリ・ネイストレム]]は、フレイヤが「戦に馳せては死者の半分を連れ帰る」という『[[ギュルヴィたぶらかし]]』の記述に注目し、フォールクヴァングを「戦士の領域」と解釈している。ネイストレムは、フレイヤはオージンと同じく戦場で死んだ英雄たちを受け入れるとし、彼女の館[[セスルームニル]](ネイストレムの解釈では「数多くの席に満ちたもの」の意)は[[ヴァルハラ|ヴァルホッル]]と同様の機能を果たしている可能性があるとしている。ネイストレムは、「とはいえ、古代北欧ではなぜ死んだ英雄の楽園が2つあるのかという疑問は残る。一つの可能性としては、オージン側となるかフレイヤ側となるかは戦士の[[通過儀礼|イニシエーション]]の形態の違いを反映しているのかもしれない。このような例が示しているのは、フレイヤは戦神であり、文字通り「死者を選ぶもの」たるヴァルキュリヤとしても立ち現れるということである」と述べている<ref name="NÄSSTRÖM61">Näsström (1999:61).</ref>。
  +
  +
[[アンドレ・ドバ]]も、「斃れた戦士の半分を選んで死の国フォールクヴァングに連れて行くという神話上の役割をもつことで、女神フレイヤがヴァルキュリヤないしディースの神話的見本として立ち現れている」と指摘している<ref name="DOBAT186">Dobat (2006:186).</ref>。
  +
  +
=== ディース、イディス、ノルンとの関係 ===
  +
[[ファイル:Idise_by_Emil_Doepler.jpg|サムネイル|『イディス』([[エミール・ドプラー]]、1905年)]]
  +
[[古高ドイツ語]]による[[呪文]]の一つ[[メルゼブルクの呪文]]には、イディス({{lang-osx|idis}}、{{lang-goh|itis}}、{{lang-ang|ides}})と呼ばれる女性的存在を喚び出して軍隊を遅滞させようとする術がある。呪文は以下の通りである。
  +
<blockquote>
  +
{|cellpadding="2"
  +
|- valign="top"
  +
|
  +
Eiris sazun idisi<br />
  +
sazun hera duoder.<br />
  +
suma hapt heptidun,<br />
  +
suma heri lezidun,<br />
  +
suma clubodun umbi cuoniouuidi:<br />
  +
insprinc haptbandun,<br />
  +
inuar uigandun.<br />
  +
|
  +
かつて賢き女ども座せり<br />
  +
ここかしこに。<br />
  +
ある者はいましめの鎖をととのえ、<br />
  +
ある者は敵の軍兵をおさえ、<br />
  +
ある者は鎖をむしりとれり。<br />
  +
「いましめを脱し、<br />
  +
敵を逃れよ!」<ref>F.マルティーニ著『ドイツ文学史』高木実、尾崎盛景、棗田光幸、山田広明 共訳、p.22。</ref><br />
  +
|}
  +
</blockquote>
  +
  +
この呪文におけるイディスは、一般にヴァルキュリヤを指していると考えられている。[[ルドルフ・ジメック|ジメック]]は、「ヴァルキュリヤは北欧神話において敵軍を縛する力を持っており、イディスは明らかにこのたぐいのものである」と述べ、[[ヘルフィヨトル]](「軍勢の縛め」)という名前との関連を指摘している。[[ヒルダ・R・デイヴィッドソン]]は、[[古英語]]の別の呪文({{Lang|ang|Wið færstice}})との比較を行って、同様の役割を措定している。
  +
  +
ジメックによれば、[[西ゲルマン語群]]のIdisという語は、「既婚未婚問わず、威厳ある尊敬の対象となる女性、[[ラテン語]]でいうところのmatrona」を指し、議論の余地があるとはいえ[[北ゲルマン語群]]の[[ディース (北欧神話)|ディース]]({{Lang|non|dís}})との関係が十分に想定されうるという。また、紀元16年[[アルミニウス]]と[[ゲルマニクス]]が戦ったイディシアヴィーソ(Idisiaviso、「イディスの平原」の意)という地名にも触れ、メルゼブルクの呪文におけるイディスの役割との関連を指摘している。
  +
  +
[[古ノルド語]]の{{Lang|non|dís}}は、古高ドイツ語の{{Lang|goh|itis}}や古ザクセン語の{{Lang|osx|idis}}、古英語の{{Lang|ang|ides}}と同じく「女性」を表す[[名詞|一般名詞]]だが、[[女神]]の一類型を示すのにも使われたと考えられている。「[[エッダ]]資料に基づけば、ディースとはヴァルキュリヤに似た死者の守護者であり、実際、『[[グズルーンの歌 その1]]』の第19スタンザではヴァルキュリヤは「オージンのディース」と呼ばれてすらいる」。『[[アトリの歌]]』28スタンザでは、ディースははっきりと「死んだ女」と呼ばれている。ディースとは死んだ女性の魂であるという信仰は、[[アイスランド]]の[[ランドディーシル]]の観念にも通じるものである<ref name="SIMEK61-62">Simek (2007:61–62).</ref>。ジメックは、「力ある女性の役割は極めて多種多様であるから、ヴァルキュリヤ、[[ノルン]]といったディースへの信仰も、多数の女神格に対する信仰が異なる形で現れたものと考えることができる」 と述べている。
  +
  +
[[ヤーコプ・グリム]]によれば、[[ノルン]]とヴァルキュリヤが性質的に似ているとしても、この2つの概念には根本的な違いがあるという。ノルンもヴァルキュリヤもディースに含まれるが、「しかし2つの役割は異なるし、普通別人である。[[運命]]を告げるノルンは、糸を繰りながら椅子に座っていたり田園を歩き回ったりするが、馬に乗ると書いてあるものはどこにもない。ヴァルキュリヤは馬に乗って戦へ馳せ参じ、その趨勢を決め、死者を天へ連れ帰る。その様は[[英雄]]や[[神]]のごときである」と述べている<ref name="GRIMM421">Grimm (1882:421).</ref>。
  +
  +
=== 古英語の同根語と語義 ===
  +
[[ファイル:Sermo_Lupi.jpg|サムネイル|ウルフスタン『イングランド人への説教』の1ページ]]
  +
wælcyrgeないしwælcyrieという単語が[[古英語]]の[[写本]]に現れることがある。これは、[[古ノルド語]]のvalkyrjaの[[同根語]]と考えられるが、古英語では基本的に外来の概念を翻訳するような場合に用いられている。例えば、[[アルドヘルム]]『処女賛美』の11世紀初頭の写本では、[[ウェヌス]](ueneris)の語のところにwælcyrgeないしgydene(女神)という注釈が付けられている。2つの写本([[クレオパトラ語彙集]]と[[コーパス語彙集]])では、Wælcyrgeはギリシアの[[エリーニュス]]たちの名前の訳語として用いられている。クレオパトラ語彙集では、ローマの女神[[ベローナ]]を指して用いられている箇所もある。
  +
  +
[[ウルフスタン]]による『イングランド人への説教(''Sermo Lupi ad Anglos'')』にはwælcyrieの語があり、これは「[[魔女]]」を示す単語として使われていると考えられている<ref name="NORTH106">North (1997:106).</ref>。エジプト軍の上を飛ぶワタリガラスを「死者を選ぶ黒きもの(wonn wælceaseg)」と書いている箇所もある。
  +
  +
リチャード・ノースは、『イングランド人への説教』での表現は明らかに北欧の影響を受けており、古ノルド語からの借用ないし翻訳と考えられる一方で、クレオパトラ語彙集とコーパス語彙集の例は「スカンディナヴィアの影響とは独立したアングロ・サクソンの観念であろう」と述べている<ref name="NORTH1062">North (1997:106).</ref>。
  +
  +
<!--十分な出典もなくあまり関係ないので翻訳せず削除(一旦コメントアウト)
  +
Two Old English charms mention figures that are theorised as representing an Anglo-Saxon notion of valkyries or valkyrie-like female beings; {{Lang|ang|[[Wið færstice]]}}, a charm to cure a sudden pain or stitch, and ''For a Swarm of Bees'', a charm to keep [[ミツバチ|honey bees]] from swarming. In {{Lang|ang|Wið færstice}}, a sudden pain is attributed to a small, "shrieking" spear thrown with supernatural strength ({{Lang|ang|mægen}}) by "fierce" loudly flying "mighty women" ({{Lang|ang|mihtigan wif}}) who have ridden over a burial mound:<blockquote class=""><poem>They were loud, yes, loud,
  +
when they rode over the (burial) mound;
  +
they were fierce when they rode across the land.
  +
Shield yourself now, you can survive this strife.
  +
Out, little spear, if there is one here within.
  +
It stood under/behind lime-wood (i.e. a shield), under a light-coloured/light-weight shield,
  +
where those mighty women marshalled their powers, and they send shrieking spears.<ref name="HALL1-2">Hall (2007:1–2).</ref></poem></blockquote>Theories have been proposed that these figures are connected to valkyries.<ref name="GREENFIELD257">Greenfield (1996:257).</ref> Richard North says that "though it is not clear what the poet takes these women to be, their female sex, riding in flight and throwing spears suggest that they were imagined in England as a female being analogous to the later Norse {{Lang|non|valkyrjur}} Hilda Ellis Davidson theorizes that Wið færstice was originally a battle spell that had, over time, been reduced to evoke "a prosaic stitch in the side". Towards the end of For a Swarm of Bees, the swarming bees are referred to as "victory-women" (Old English sigewif):
  +
Settle down, victory-women,
  +
never be wild and fly to the woods.
  +
Be as mindful of my welfare,
  +
as is each man of eating and of home.
  +
The term "victory women" has been theorised as pointing to an association with valkyries. This theory is not universally accepted, and the reference has also been theorised as a simple metaphor for the "victorious sword" (the stinging) of the bees.<blockquote class=""><poem>Settle down, victory-women,
  +
never be wild and fly to the woods.
  +
Be as mindful of my welfare,
  +
as is each man of eating and of home.<ref name="GREENFIELD256">Greenfield (1996:256).</ref></poem></blockquote>The term "victory women" has been theorised as pointing to an association with valkyries. This theory is not universally accepted, and the reference has also been theorised as a simple metaphor for the "victorious sword" (the stinging) of the bees.
  +
-->
  +
== 近代以降の受容 ==
  +
[[File:Schott's 1899 Walkure title.jpg|サムネイル|ワーグナー『ヴァルキューレ』の台本表紙(1899年)]]
  +
[[ファイル:Jugend-magazine-valkyrie-rheingold-advertisement-I.jpg|サムネイル|[[ゼーンライン]]社の[[スパークリングワイン]]「ラインゴルト」の瓶を検めるヴァルキュリヤ([[ユーゲント・シュティール|ユーゲントシュティール]]様式の[[広告]]、1901年)]]
  +
ヴァルキュリヤは、19世紀以降、[[詩]]や[[美術]]、[[音楽]]など、さまざまな芸術作品のモチーフとされてきた。特に[[ドイツ]]では、[[ロマン主義]]と[[汎ゲルマン主義]]の潮流の中で、『[[ニーベルンゲンの歌]]』などを通してゲルマン文化としてのつながりを示す[[北欧神話]]への興味が高まり、多くの作品が作成された。
  +
  +
詩では、[[ハインリヒ・ハイネ]]の「ワルキューレ」(『[[ロマンツェロ]]』所収、1847年)や[[H・フォン・リンゲ]]の「ワルキューレ」(1864年)、[[スウェーデン]]の詩人[[カリン・ボイェ]]の「スケルドモン」(『ゲンダランド』所収、1924年)などがよく知られている<ref name="SIMEK349">Simek (2007:349).</ref>。
  +
  +
美術作品としては、[[J・G・サンドバーグ]]や[[M・エヒター]]、[[A・ウェルチ]]、[[T・ピクシス]]、[[A・ベッカー]]、[[K・エーレンバーグ]]、[[H・ギュンター]]、[[H・ヘンドリッヒ]]、[[J・C・ドールマン]]、[[A・コルブ]]、[[E・ハンセン]]といった作家が、ヴァルキュリヤを主題とした作品を制作している<ref name="SIMEK349-350">Simek (2007:349–350).</ref>。
  +
  +
音楽作品で最も有名なのは、[[リヒャルト・ワーグナー]]の[[オペラ|楽劇]]『[[ニーベルングの指環]]』の第1幕『[[ワルキューレ (楽劇)|ヴァルキューレ]]』であろう。『ニーベルングの指環』は、『シグルドリーヴァの歌』や『[[ヴォルスンガ・サガ]]』など北欧の[[シグルズ]]と[[ブリュンヒルド]]の物語をベースとして作劇され、9人のヴァルキューレが[[オーディン|ヴォータン]](オージン)の娘として登場する。彼女らの名前は(ブリュンヒルデを除き)ワーグナーの創作であり、[[古ノルド語]]の資料には登場しない。ワーグナーの創造した神話世界は、原資料の描写を侵食するほどの印象を大衆に与え{{sfn|Gentry|McConnell|Müller|Wunderlich|2011|p=|pp=222}}、後世のヴァルキュリヤのイメージにも大きく影響した。
  +
  +
現代では、[[北欧神話]]や『[[ニーベルングの指環]]』をモチーフとした[[ファンタジー]]や[[テレビゲーム]]などにおいて、戦闘を担う女戦士としてヴァルキュリヤが登場することがある。例えば『[[ヴァルキリープロファイル]]』では主人公がヴァルキリーであり、来るラグナロクに備えて斃れた戦士の魂を集める役割を担う。
  +
  +
== 脚注 ==
  +
{{reflist|30em}}
   
 
== 参考文献 ==
 
== 参考文献 ==
  +
{{Refbegin}}
*V.G.ネッケル他編『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年。
 
  +
* Andrén, A.; Jennbert, K.; Raudvere, C. (2006) "[https://books.google.com/books?id=gjq6rvoIRpAC&pg=PA11 Old Norse Religion: Some Problems and Prospects]" in ''Old Norse Religion in Long Term Perspectives: Origins, Changes and Interactions, an International Conference in Lund, Sweden, 3–7 June 2004''. Nordic Academic Press. {{ISBN|91-89116-81-X}}
*菅原邦城 『北欧神話』東京書籍、1982年。
 
  +
* Byock, Jesse (Trans.) (2006). ''[https://books.google.com/books?id=EWgTAAAACAAJ The Prose Edda]''. [[Penguin Classics]]. {{ISBN|0-14-044755-5}}
  +
* [[Hilda Ellis Davidson|Davidson, Hilda Roderick Ellis]] (1988). ''[https://books.google.com/books?id=RerIAAAAIAAJ Myths and Symbols in Pagan Europe: Early Scandinavian and Celtic Religions]''. [[Manchester University Press]]. {{ISBN|0-7190-2579-6}}
  +
* Davidson, Hilda Roderick Ellis (1990). ''[https://books.google.com/books?id=O1faK2QkRvwC Gods and Myths of Northern Europe]''. [[Penguin Books]]. {{ISBN|0-14-013627-4}}
  +
* Dobat, Siegfried Andres (2006). "[https://books.google.com/books?id=gjq6rvoIRpAC&pg=PA184 Bridging mythology and belief: Viking Age functional culture as a reflection of the belief in divine intervention]" in Andren, A.; Jennbert, K.; Raudvere, C. ''Old Norse Religion in Long Term Perspectives: Origins, Changes and Interactions, an International Conference in Lund, Sweden, 3–7 June 2004.'' Nordic Academic Press. {{ISBN|91-89116-81-X}}
  +
* [[Ursula Dronke|Dronke, Ursula]] (Trans.) (1997). ''[https://books.google.com/books?id=iDpcAAAAMAAJ The Poetic Edda: Volume II: Mythological Poems]''. [[Oxford University Press]]. {{ISBN|0-19-811181-9}}
  +
* Faulkes, Anthony (Trans.) (1995). ''Edda''. [[Everyman's Library|Everyman]]. {{ISBN|0-460-87616-3}}
  +
* Finlay, Alison (2004). ''[https://books.google.com/books?id=SmJ8v1ENhg4C Fagrskinna, a Catalogue of the Kings of Norway: A Translation with Introduction and Notes]''. [[Brill Publishers]]. {{ISBN|90-04-13172-8}}
  +
* {{cite book| editor-last1=Gentry| editor-first1=Francis G.| editor-last2=McConnell| editor-first2=Winder| editor-last3=Müller| editor-first3=Ulrich |editor-last4=Wunderlich| editor-first4=Werner |title=The Nibelungen Tradition. An Encyclopedia |date=2011 |orig-year=2002|publisher=Routledge |location=New York, Abingdon |isbn= 0-8153-1785-9 | url=https://books.google.co.uk/books?id=qfizAAAAQBAJ |ref=harv}}
  +
* Greenfield, Stanley B.; Calder, Daniel Gillmore; Lapidge, Michael (1996). ''[https://books.google.com/books?id=kreGLK6VbqwC A New Critical History of Old English Literature]''. [[New York University Press]]. {{ISBN|0-8147-3088-4}}
  +
* [[Jacob Grimm|Grimm, Jacob]] (1882) translated by James Steven Stallybrass. ''[[Deutsche Mythologie|Teutonic Mythology: Translated from the Fourth Edition with Notes and Appendix by James Stallybrass]]''. Volume I. London: George Bell and Sons.
  +
* Hall, Alaric (2007). ''[https://books.google.com/books?id=G1V2N0GAkHQC Elves in Anglo-Saxon England]''. [[Boydell Press]]. {{ISBN|1-84383-294-1}}
  +
* Kennedy, Maev (2013). "Flight of the valkyrie: the Viking figurine that's heading for Britain". [[Theguardian.com]], Monday 4 March 2013. Online: [https://www.theguardian.com/culture/2013/mar/04/viking-valkyrie-figurine-british-museum]
  +
* [[Lee M. Hollander|Hollander, Lee Milton]] (1980). ''[https://books.google.com/books?id=PUzazIlboAcC Old Norse Poems: The Most Important Nonskaldic Verse Not Included in the Poetic Edda]''. Forgotten Books. {{ISBN|1-60506-715-6}}
  +
* Hollander, Lee Milton (Trans.) (2007). ''[https://books.google.com/books?id=qHpwje7-wNkC Heimskringla: History of the Kings of Norway]''. [[University of Texas Press]]. {{ISBN|978-0-292-73061-8}}
  +
* [[Finnur Jónsson]] (1973). ''Den Norsk-Islandske Skjaldedigtning''. Rosenkilde og Bagger. {{da icon}}
  +
* Larrington, Carolyne (Trans.) (1999). ''[https://books.google.com/books?id=nBzuQZ4MCPIC The Poetic Edda]''. [[Oxford World's Classics]]. {{ISBN|0-19-283946-2}}
  +
* [[John Lindow|Lindow, John]] (2001). ''[https://books.google.com/books?id=KlT7tv3eMSwC&printsec=frontcover&source=gbs_navlinks_s#v=onepage&q=&f=false Norse Mythology: A Guide to the Gods, Heroes, Rituals and Beliefs]''. [[Oxford University Press]]. {{ISBN|0-19-515382-0}}
  +
* MacLeod, Mindy; Mees, Bernard (2006). ''[https://books.google.com/books?id=hx7UigqsTKoC Runic Amulets and Magic Objects]''. [[Boydell Press]]. {{ISBN|1-84383-205-4}}
  +
* Näsström, Britt-Mari (1999). "[https://books.google.com/books?id=TU_H79-CtucC&pg=PA57 Freyja: The Trivalent Goddess]" in Sand, Reenberg Erik; Sørensen, Jørgen Podemann (1999). ''Comparative Studies in History of Religions: Their Aim, Scrope and Validity''. Museum Tusculanum Press. {{ISBN|87-7289-533-0}}
  +
* North, Richard (1997). ''[https://books.google.com/books?id=X_LKUIqNvPQC Heathen Gods in Old English Literature]''. [[Cambridge University Press]]. {{ISBN|0-521-55183-8}}
  +
* Orchard, Andy (1997). ''[https://books.google.com/books?id=5hbPHQAACAAJ Dictionary of Norse Myth and Legend]''. [[Orion Publishing Group|Cassell]]. {{ISBN|0-304-34520-2}}
  +
* [[Vladimir Orel|Orel, Vladimir]] (2003). ''A Handbook of Germanic Etymology''. Brill. {{ISBN|9004128751}}
  +
* [[Rudolf Simek|Simek, Rudolf]] (2007) translated by Angela Hall. ''[https://books.google.com/books?id=Zni8GwAACAAJ Dictionary of Northern Mythology]''. [[Boydell & Brewer|D.S. Brewer]] {{ISBN|0-85991-513-1}}
  +
* Wessén, Elias; Sven B.F. Jansson (1953–58). ''[https://books.google.com/books?id=SJ0eOgAACAAJ Sveriges runinskrifter: IX. Upplands runinskrifter del 4.]'' Stockholm: Kungl. Vitterhets Historie och Antikvitets Akademien. ISSN 0562-8016 {{Sv icon}}
  +
* {{Cite book |和書
  +
|editor = G・ネッケル; H・クーン; A・ホルツマルク; J・ヘルガソン
  +
|translator = 谷口幸男
  +
|title = エッダ―古代北欧歌謡集
  +
|date = 1973
  +
|publisher = 新潮社
  +
|isbn = 4103137010
  +
|ref = harv }}
  +
{{Refend}}
   
  +
{{commons category|Valkyries}}
== 関連項目 ==
 
{{Commonscat|Valkyries}}
 
* [[ヴァルハラ]] - [[エインヘリャル]]
 
* [[スクルド]]
 
* [[フレイヤ]]
 
* [[シグルズ]] ([[北欧神話]]に登場する[[英雄]]の一人。ワルキューレ、ブリュンヒルデとの恋愛トラブルで殺される)
 
   
 
{{北欧神話}}
 
{{北欧神話}}
 
{{Normdaten}}
 
{{Normdaten}}
  +
{{DEFAULTSORT:わるきゆれ}}
 
  +
{{DEFAULTSORT:うあるきゆりあ}}
  +
[[Category:北欧神話]]
 
[[Category:ワルキューレ|*]]
 
[[Category:ワルキューレ|*]]
[[Category:ドイツ語の語句|う]]
 
 
[[Category:古ノルド語の語句|う]]
 
[[Category:古ノルド語の語句|う]]

2018年10月2日 (火) 15:36時点における版

『ワルキューレの騎行』(ジョン・チャールズ・ドールマン、1909年)

ヴァルキュリヤ古ノルド語: valkyrja英語: valkyrieドイツ語: Walküre、ヴァルキュリア、ヴァルキリー、ヴァルキューレとも。「死体を選ぶもの」の意)は、北欧神話において、戦場で生きる者と死ぬ者を定める女性、およびその軍団のことである。戦場で死んだ者の半分をオージンの治める死者の館ヴァルホッルに連れて行く役割を担う。ヴァルホッルでは、死んだ戦士たちは終末戦争ラグナロクに備える兵士エインヘリャルとなるが、ヴァルキュリヤは彼らに蜜酒を与える給仕ともなる。また、ヴァルキュリヤは英雄をはじめとする人間たちの恋人としても登場し、そのような場合は王族の娘として描かれることもある。ワタリガラスを伴って描かれたり、また白鳥と結び付けられることもある。

ヴァルキュリヤは、13世紀に書かれた『スノッリのエッダ(散文のエッダ)』『古エッダ(詩のエッダ)』『ヘイムスクリングラ』『ニャールのサガ』などに記述が見られる。スカルド詩14世紀呪文ルーン碑文などにも登場する。また考古学的には、ヴァルキュリヤを描いたと考えられている魔除けなどが出土している。

北欧神話に登場するノルンディースといった存在は、いずれもヴァルキュリヤと同様に運命を司る超自然的存在であり、その関係性についても解釈がなされている。

語源と別称

古ノルド語のvalkyrjaは、valr(戦場の死体)とkjósa(選ぶ)の2語から構成され、合わせて「死体を選ぶもの」を意味する。古英語の同根語にwælcyrgeがあり[1]、文献学者のウラジーミル・オーレルは、これらからゲルマン祖語の語形*wala-kuzjōnを再建した[2]。ただし、古英語の単語が単に古ノルド語からの借用である可能性もある。

古ノルド語の文献でヴァルキュリヤを指す他の語として、『オッドルーンの嘆き』にある「願いの乙女(óskmey)」や、『名の諳誦』にある「オージンの乙女(Óðins meyjar)」「ヴィズリルの乙女」「死の乙女(valmeyjar)」などがある。「願いの乙女」はおそらく、オージンが持つ多くの異称の一つ「願いを叶えるもの(Óski)」と関連しており、オージンがヴァルホッルに死者たちを受け入れるということに言及したものと考えられる[3]

典拠

『古エッダ』

古エッダ』では、『巫女の予言』『グリームニルの言葉』『ヴォルンドの歌』『フンディング殺しのヘルギの歌 その一』『ヒョルヴァルズの子ヘルギの歌』『フンディング殺しのヘルギの歌 その二』『シグルドリーヴァの言葉』にヴァルキュリヤが登場する。

『巫女の予言』と『グリームニルの言葉』

ヴァルハラでエールを運ぶヒルド、スルーズ、フロック(ローランス・フレーリク、1895年)

巫女の予言』第30スタンザでは、ヴォルヴァ(北欧における流浪の巫女)がオージンに、「英雄たちのもと」に乗り込まんとするヴァルキュリヤが遠くから来るのを「見た」と伝える。続けてヴォルヴァは、6人のヴァルキュリヤの名前を述べる。スクルド(「負債」ないし「未来」)、スコグル(「揺らすもの」)、グン(「戦」)、ヒルド(「争い」)、ゴンドゥル(「杖を振るうもの」)、ゲイルスコグル(「槍のスコグル」)である。その後に、今述べたのは「ヘリアンの娘たち、地上に馬をはしらせんとする」ヴァルキュリヤたちであると述べる[4]

グリームニルの言葉』では、拷問されたグリームニル(オージンの異相)が、小さなアグナルに向かって、フリスト(震えるもの)とミスト(雲)というヴァルキュリヤが角杯を持ってくるだろうと語り、続いて、エインヘリャルエールを注ぐ役目の11のヴァルキュリヤの名前を述べる。スケッギョルド(「斧の時代」)、スコグル、ヒルド、スルーズ(「力」)、フロック(「騒音」ないし「戦闘」)、ヘルフィヨトゥル(「軍勢の縛め」)、ゴッル(「騒音」)、ゲイラホズ(「槍の戦い」)、ランドグリーズ(「楯を壊すもの」)、ラーズグリーズ(「計画を壊すもの」)、レギンレイヴ(「神々の娘」)である[5]

『ヴォルンドの歌』

羽衣を脱いだ3人のヴァルキュリヤ(ジェニー・ナイストローム、1893年頃)

ヴォルンドの歌』の導入部の散文は、スラグフィズエギルヴォルンドの兄弟がウールヴダリル(狼の谷)と呼ばれる地に建てた家に住まう話を語るものである。ある朝早く、兄弟はウールヴスヤール(狼の湖)の畔で糸を繰る3人の女性に出会う。彼らはヴァルキュリヤで、「かたわらには白鳥の羽衣がおいてあ」った[6]。うち2人はフロドヴェール王の娘で、名はフラズグズ・スヴァンフヴィート(白鳥の白)とヘルヴォル・アルヴィト(おそらく「全知」の意[7])といった。もう一人は、ヴァランドキャール王の娘で、名をオルルーン(おそらく「エールのルーン」の意[8])といった。エギルがオルルーンを、スラグフィズがフラズグズを、ヴォルンドがヘルヴォルを連れ帰り、7つの冬の間一緒に暮らしたが、女たちはある日戦場へと飛び去って戻ってくることはなかった。エギルは雪靴を履いてオルルーンを探しに行き、スラグフィズもフラズグズを探しに出たが、ヴォルンドはウールヴダリルに留まった[9]

『フンディング殺しのヘルギの歌 その一』

フンディング殺しのヘルギとシグルーン(ロバート・エンゲルズ、1919年)

フンディング殺しのヘルギの歌 その一』は、フンディング殺しの英雄ヘルギが、死体の散らばるロガフィヨルの戦場のただ中に座っている場面から始まる。から光が輝き、その光から雷電が走った。空を駆けて兜をつけたヴァルキュリヤたちが現れる。腰まである鎖帷子は血にまみれており、その槍はまばゆく輝いていた。

そのとき、ロガフィエルから光がさし、その光の中から閃光がひらめいた。……大空(ヒミンヴァンガル)を兜も凛々しく……鎧は血しぶきで汚れ、槍先から光がきらめいた。[10]

続くスタンザで、矢が降り注ぐ中、ヘルギはヴァルキュリヤたち(彼は「南の女神たち」と呼んだ)に、日が落ちたら兵を引き上げたらどうかと尋ねる。戦が終わると、馬に乗ったシグルーン(「勝利のルーン」の意[11])というヴァルキュリヤが、自分は父ホグニに言われて、フニヴルング族グランマル王の息子ホズブロッドと婚約させられたが、彼にその価値はないと思っていると述べる。ヘルギはフレカステインに大軍勢を集めてフニヴルング族に戦を仕掛け、婚約を避けたいシグルーンを助けた[12]。詩の後半では、英雄シンフィヨトリグズムンドと罵り比べをする。シンフィヨトリは、グズムンドがかつて、「万物の父のところでも、災いを生む恐ろしい手に負えぬ魔女」であったことを嘲り、「お前のためにヴァルハラの戦士たちは戦い合わねばならなかったのだ」と付け加える[13]。詩には、「ヴァルキュリヤの空気のような海」という表現が霧を表すケニングとして用いられている[14]。詩の終盤、ヴァルキュリヤたちは再び天から下り、今度はフレカステインで戦うヘルギを守護する。戦が終わると、ヴァルキュリヤたちはみな飛び去っていくが、シグルーンは残り、ともにいた狼たち(「女巨人の馬」)は死体を食べ尽くした。

そのとき、天から兜も白く輝く者たちが下ってきて――槍の響きはいやます――王をば守った。そのとき、シグルーンはいった。――ヴァルキューレたちが飛びかい、フギンの餌を女巨人の馬が平らげた――[15]

果たして戦争はヘルギの勝利に終わると、シグルーンはヘルギに、彼が偉大な支配者となると告げて宣誓をした[16]

『ヒョルヴァルズの子ヘルギの歌』

『ヴァルキリー』(コペンハーゲン、カステレット要塞チャーチル公園、ステファン・シンディング作、1908年)

ヒョルヴァルズの子ヘルギの歌』には、次のような散文の語りがある。ノルウェー王ヒョルヴァルズスヴァーヴニルシグルリンの間の息子である名無しの男が、墳丘墓の上に座りながら、9人のヴァルキュリヤが馬で駆けてくるのを見かける。その中の一人が特に人目を引いた。このヴァルキュリヤがエイリミ王の娘スヴァーヴァであり、「戦で彼を守った」ことが後に語られる。ヴァルキュリヤは男に話しかけ、ヘルギ(「聖なるもの」の意[17])という名を授ける。それまで一言も発しなかったヘルギは口を開き、ヴァルキュリヤを「輝く乙女」と呼んで、名前とともにいかなる贈り物をもらえるのか尋ねた上で、また贈り物は、自分と結婚しなければ受け取ることはできないと告げる。ヴァルキュリヤは、シガルスホルムに秘蔵された剣の中でも特に貴重な一本に覚えがあると述べ、その仔細を詳らかにする[18]。詩の部分では、アトリが女巨人フリームゲルズ罵り比べ(flyting)をする。フリームゲルズはアトリを罵る言葉の中で、ヘルギの周りで27人のヴァルキュリヤを見たと言い、特に美しい一人が一団を率いていたと述べる。

二十七人の女がいたが、それに先駆けて、兜をかぶった輝く乙女がいた。馬どもはたてがみを振り、そのたてがみから、深い谷に露がおり、高い森には霰が降った。このため人間たちのところに豊年がやってくるのさ。わたしがみたものは何もかもいやなものばかりだったよ。[19]

フリームゲルズが日光を浴びて石に変じてしまった後、散文の語りは、王となったヘルギがエイリミ王の元に向かい、娘スヴァーヴァとの結婚を求める場面に移る。ヘルギとスヴァーヴァは婚約し、お互いを心から愛した。スヴァーヴァはエイリミ王とともに暮らし、ヘルギは外に戦いに出た。ここでは、スヴァーヴァは「相変わらず」ヴァルキュリヤであったと付け加えられている[20]。詩は続き、さまざまな出来事が起こるが、その中でヘルギは戦場で受けた傷が元で死ぬ。詩は、ヘルギとスヴァーヴァは「生れ変わったといわれている」と締めくくられる[21]

『フンディングル殺しのヘルギの歌 その二』

『ヘルギとシグルーン』(ヨハンズ・ゲールツ、1901年)

フンディングル殺しのヘルギの歌 その二』の冒頭、散文で語られることには、シグムンド王(ヴォルスングの息子)と妻ボルグヒルドには一人息子がおり、名をヘルギといった。これはヒョルヴァルズの息子ヘルギにちなんで付けられた名前である[22]。第4スタンザでヘルギがフンディング王を殺した後、ヘルギは逃げて、海岸で屠った牛の生肉を食べ、そしてシグルーンに出会う。ホグニ王の娘シグルーンは「ヴァルキュリヤになり、空と海を駆けた」と語られ、またスヴァーヴァの生まれ変わりであるという[23]。第7スタンザには、シグルーンが「グンの姉妹の雁に餌を与える」という表現がある。グンの姉妹とはすなわちヴァルキュリヤであり、その雁というのはワタリガラスで、戦場に残された死体を食べさせるという意味である[24]

第18スタンザの後では、ヘルギの大船団がフレカステインに向かう途中で大嵐に遭ってしまう。1隻を稲妻が打った。9人のヴァルキュリアが空を飛ぶのが見え、その中にはシグルーンがいた。嵐は弱まり、船団は無事に接岸する[25]。ヘルギは戦で死ぬが、シグルーンに会うためにヴァルホッルから墓へと一度戻ってくる。詩の最後では、後にシグルーンは嘆きのあまり死んだと語られる。エピローグでは、「今は、老婆のたわごとだと思われている」が、「人は生れ変わるもの、と昔は信じられてい」て、「ヘルギとシグルーンは」また別のヘルギとヴァルキュリア、つまりハッディンギャルの勇士ヘルギとハルフダンの娘カーラに「生れ変わったといわれている」と語られる[26]。また、この2人の話は(現存しない)『カーラの歌』で語られると述べられる。

『シグルドリーヴァの言葉』

異教の祈りを唱えるシグルドリーヴァ(アーサー・ラッカム、1911年)

シグルドリーヴァの言葉』の導入部では、英雄シグルズがヒンダルフィヨルの山を登り、「フランクの地」に向かって南進する場面が、散文で描かれる。山でシグルズは「天にまで輝き映え」る「火が燃えているような大なる光焔」を見る。近づいてみると、そこには垂れ幕はためく盾の壁があった。中に入ったシグルズは、一人の戦士が横たわっているのを見る。完全武装で眠っているようである。シグルズが兜を脱がすと、女性であった。胴鎧は体に張り付いているのではないかと思われるほどきつく、シグルズは名剣グラムで胴鎧を首から袖の方へ切り裂いて外した[27]

女性は目覚め、起き上がると、シグルズを見た。ここからの2スタンザは二人の会話である。2つ目のスタンザで、その女性が話すことには、大神オージンによって魔法で醒めない眠りをかけられ、長く眠っていたという。シグルズが名前を尋ねると、女性は言葉を忘れなくなる蜜酒の角杯をシグルズに与えた。女性は続く2スタンザで異教の祈りを唱えた。散文部分で、この女性はシグルドリーヴァという名前のヴァルキュリヤであると説明される[28]

シグルドリーヴァはシグルズに、戦った2人の王の話をした。曰く、オージンはその片方、兜のグンナルに勝利を約束したが、シグルドリーヴァはオージンの意に背きグンナルを倒してしまった。オージンは罰として眠りの茨で彼女を刺し、「今後は戦で勝利を決してうることはな」いと言って、結婚を命じた。シグルドリーヴァは、恐れを知らぬ男としか結婚しないとオージンに返答したという。シグルズはシグルドリーヴァに全世界の知恵を教えてくれるよう頼む。すると彼女は、ルーンの書き方、魔術、予言の知識をシグルズに与えた[29]

『スノッリのエッダ』

13世紀スノッリ・ストゥルルソンによって書かれた『エッダ』にも、広くヴァルキュリヤに関する言及がある。

『ギュルヴィたぶらかし』

『ワルキューレ』(ヘルマン・ヴィルヘルム・ビッセン、1835年)

『スノッリのエッダ』でヴァルキュリヤの語が最初に現れるのは、『ギュルヴィたぶらかし』の36章である。ハールという王冠をかぶった人物が、ギュルヴィ王が変装したガングレリに、ヴァルキュリヤの仕事を教え、数柱の女神についても話した。ハール曰く、「ヴァルハラにはべって、飲物を運び、食卓や酒器を受けもつものがいる」といい、『グリームニルの言葉』のスタンザから引用した名前のリストを読み上げた上で、「これらはヴァルキューレと呼ばれている。オーディンが彼らをすべての戦場につかわし、彼らは人々の死の色を見て取り、勝敗を決めるのだ」と述べる[30]。さらに、グンロータ、「最も若きノルンスクルドの3人の名前を付け加え、「たえず馬にまたがって戦死者を選び、戦の決着をつける」とした[30]。49章では、オージンと妻フリッグが死んだ息子バルドルの弔いに訪れたとき、ヴァルキュリヤとワタリガラス(フギンとムニン)がともにあったことが語られる。

『詩語法』

スカルド詩の技法を伝える『詩語法』全体を通して、ヴァルキュリヤへの言及が見られる。2章では、10世紀の詩人ウールヴ・ウッガソンの『家の頌歌』という作品から引用がなされる。その詩では、新しく建てられた館で催されたバルドルの葬式の宴会の場面が描かれ、オージンに伴うヴァルキュリヤとワタリガラスについても触れられている。

There I perceive valkyries and ravens,
accompanying the wise victory-tree [Odin]
to the drink of the holy offering [Baldr's funeral feast]
Within have appeared these motifs.[31]

2章の続きでは、10世紀の詠み人知らずの詩『エイリークの言葉』からの引用がなされる。

What sort of dream is that, Odin?
I dreamed I rose up before dawn
to clear up Val-hall for slain people.
I aroused the Einheriar,
bade them get up to strew the benches,
clean the beer-cups,
the valkyries to serve wine
for the arrival of a prince.[32]

31章では、女性に言及する際の詩語が示されるが、「アースニヤ(アース神族の女神)、ヴァルキュリヤ、ノルン、あるいはディースといった言葉も用いられる」とある[33]。41章では、英雄シグルズが山の上で出会った眠る女性を目覚めさせたというエピソードが語られ、兜のヒルドと名乗った「彼女はブリュンヒルドとして知られるヴァルキュリヤである」と述べられる[34]

48章では、「武器や盾、オージンやヴァルキュリヤや将軍たちや彼らのぶつかり合いやその喧騒」、すなわち戦に関する詩語が挙げられる。その具体例として、さまざまなスカルド詩人がヴァルキュリヤの名前を使った例が続けて述べられる。ソルビョルン・ホルンクローヴィは「スコグルのざわめき」に「戦場」の意味をもたせ、ベルシ・スカールドトルフソンは「グンの火」で「剣」、「フロックの雪」で「戦い」を指した。エイナル・スクーラソンは「ヒルドの帆」で「盾」を、「ゴンドゥルのぶつかり合う風」で「戦い」を表し、エイナル・スカーラグラムも「ゴンドゥルのざわめき」を用いている。49章では、武器や鎧に関する情報が示されるが、ここでは「死の乙女(valmeyjar)」の語が使われるとある[35]。57章では、アース神族の女神が列挙される中で、「オージンの乙女」すなわちヴァルキュリヤの名前を挙げる節がある。そこでは、ヒルドゴンドゥルフロックミストスコグルに加えて、フルンドエイルフリスト、スクルドが挙げられている。この節には「運命を定める彼らはノルンと呼ばれる」との注釈がある[36]

写本によっては『詩語法』の中に『名の諳誦』という節があり、ここで29人のヴァルキュリヤの名前が列挙される。第1スタンザでは、フリスト、ミスト、へリャ、フロック、ゲイラヴォルゴッルヒョルスリムルグズヘルフョルトラ、スクルド、ゲイロヌル、スコグル、ランドグリーズ、第2スタンザでは、ラーズグリーズ、ゴンドゥル、スヴィプルゲイルスコグル、ヒルド、スケッギョルド、フルンド、ゲイルドリヴル、ランドグリーズ、スルーズレギンレイヴスヴェイズソグンヒャルムスリムルスリマスカルモルドが挙げられている[37]

『大鴉の言葉』

ワタリガラスと話すヴァルキュリヤ(木版画、ジョーゼフ・スウェイン彫、フレデリック・サンディ絵、1862年)

一般には9世紀ソルビョルン・ホルンクローヴィによって書かれたとされる断片的なスカルド詩である『大鴉の言葉』は、一人のヴァルキュリヤと一羽のワタリガラスの会話を中心に据え、主にノルウェー王ハーラル1世の生涯と事績を物語るものである。詩は、ハーラル美髪王の事績を詠む詩人のために、貴人たちに静まるよう呼びかける場面から始まる。「嘴の大きなワタリガラス」と話す、「金髪」で「腕の白い」「賢き」乙女のことをみな聞いたことがあるだろうと、語り手は述べる。そのヴァルキュリヤは自らの賢さを頼むところ厚く、鳥の言葉が分かり、さらに白い喉と輝く眼を持ち、男の中で楽しみを覚えないと語られる。

Wise thought her the valkyrie; were welcome never
men to the bright-eyed one, her who the birds' speech knew well.
Greeted the light-lashed maiden, the lily-throated woman,
The hymir's-skull-cleaver as on cliff he was perching.

美しいと描写されたそのヴァルキュリヤは、血に塗れ死体をついばむワタリガラスに話しかける。

"How is it, ye ravens—whence are ye come now
with beaks all gory, at break of morning?
Carrion-reek ye carry, and your claws are bloody.
Were ye near, at night-time, where ye knew of corpses?"[38]

黒いワタリガラスは身を震わせ、卵から孵った頃から我々はハーラルに付き従っていると答える。ヴァルキュリヤがハーラルの事績をあまり知らないようだったのでワタリガラスは驚き、数スタンザに渡ってハーラルの行いを語る。第15スタンザで、ハーラルに関してヴァルキュリヤが質問し、ワタリガラスがそれに答える質疑応答の様式となり、詩が終わるまで続く[39]

『ニャールのサガ』

『ワルキューレの騎行』(アンリ・ド・グルー、1890年頃)

ニャールのサガ』157章では、ドッルズという男が、聖金曜日にカタネスで、馬に乗って石室に向かう12人の人々を見た話が語られる。石室に入っていった彼らをドッルズは見失ってしまうが、石室の壁の割れ目から中を除くと、そこには女性たちがいて、織機のようなものを組み立てていた。それはなんと、男の首を重しに、はらわたを縦糸と横糸に、剣を杼にして、糸車は矢で作られていた。彼女たちは歌を歌っており、ドッルズが覚えたそれは『槍の歌』と呼ばれている[40]

この歌は11のスタンザからなり、その中で、ヴァルキュリヤたちが布を織りながら、クロンターフの戦いで誰が死ぬのかを選んでいた。歌では、ヒルドヒョルスリムルサングリーズスヴィプルグズゴンドゥルの名前が示される。第9スタンザにはこうある。

Now awful it is to be without,
as blood-red rack races overhead;
is the welkin gory with warriors' blood
as we valkyries war-songs chanted.[41]

詩の終盤、ヴァルキュリヤは「鞍なき馬に跨りて我らは疾く駆け出さん、しかして剣を掲げ戦うべし」と歌い、織機を粉々に壊してしまう。ドッルズが壁の割れ目から離れて帰途につくと、女たちは馬を駆って、6人は北に、もう6人は南へと去った[42]

『ファグルスキンナ』

死者を運ぶ途中でヘイムダルに出会うヴァルキュリヤたち(ローランス・フレーリク、1906年)

ファグルスキンナ』の第8章では、王母グンヒルドが、夫である血斧王エイリークの死後に詩を詠ませたことが語られる。『エイリークの言葉』として知られるこの詩は10世紀以降の作で、作者は不明である。エイリークと五人の王が死後ヴァルホッルにたどりつくさまを描くものである。詩は、オージンの台詞から始まる。

'What kind of a dream is it,' said Óðinn,
in which just before daybreak,
I thought I cleared Valhǫll,
for coming of slain men?
I waked the Einherjar,
bade valkyries rise up,
to strew the bench,
and scour the beakers,
wine to carry,
as for a king's coming,
here to me I expect
heroes' coming from the world,
certain great ones,
so glad is my heart.[43]

この音が轟くのはどこからか、ヴァルホッルの長椅子がきしんでいる、まるでバルドルが帰ってきたとでもいうかのように、何千人もが動いているようだ、とブラギが言うと、オージンは答えた。お前もよく知っているだろう、あれはじきにここに着く血斧王エイリークを迎える音だ、と。本当に彼であれば、英雄シグムンドシンフィヨトリが彼に挨拶するだろうとオージンは述べる[44]

『ヘイムスクリングラ』

寝ずの番をするヴァルキリー(エドワード・ロバート・ヒューズ、1906年)

ヘイムスクリングラ』の最後の方に収められた『肩広のホーコン王のサガ』には、10世紀のスカルド詩人である剽窃者エイヴィンドの『ハーコンの言葉』が載っている。サガはノルウェー王ハーコン1世の戦死を語るもので、彼は、キリスト教徒でありながら「異教徒の中で」死ぬがゆえに「ふさわしいと思う場所に埋葬してくれ」と頼んだと伝える。ハーコンは自らが生まれた石の板の上で倒れるやいなや、友や仲間からその死を惜しまれた。友人はその遺骸を北ホルダランに運び、武装させたまま副葬品なく巨大な塚に埋葬したという。続いて、「異教徒の習慣に従い墳墓には言葉がかけられ、彼らは王をヴァルホッルへと送り出した」[45]という記述がある。『ハーコンの言葉』はその後に置かれている。

『ハーコンの言葉』において、オージンは二人のヴァルキュリヤ、ゴンドゥルスコグルを送り出し、ヴァルハラに住まうべき者を「諸王の血族から見繕う」よう命じる。戦いを意味する「スコグルの嵐」というケニングを用いて描写される、大勢が死ぬ大きな戦い(フィチヤールの戦い)が起こる。ハーコンとその兵は戦死するが、そのとき、槍の柄に寄りかかるゴンドゥルの姿を見る。「ハーコンよ、神々の配下はさらに栄えよう。汝が聖なる神の王の御下に住まうことを命じられるがゆえに」とゴンドゥルが告げると、ハーコンはそれを聞いた。ヴァルキュリヤは「兜と盾を身に着け、青毛の馬に勇ましく跨る」姿として描かれる[46]。続いてハーコンとスコグルの短い会話がなされる。

Hákon said:
"Why didst Geirskogul grudge us victory?
though worthy we were for the gods to grant it?"
Skogul said:
"'Tis owing to us that the issue was won
and your foemen fled."[47]

スコグルは、「神の王が住まう緑の家に」駆け戻り、王がヴァルホッルに来たる旨をオージンに伝えに上がると述べる。詩は続き、ハーコンはヴァルハラのエインヘリャルの一員となって大狼フェンリルとの戦いを待つ[48]

ラグンヒルド・トレガガースの呪文

1324年ノルウェーベルゲンで開かれた魔女裁判では、被告であるラグンヒルド・トレガガースが前夫バールドと別れるために使った呪文が記録されている。この呪文にはゴンドゥルの名前が含まれている。

I send out from me the spirits of (the valkyrie) Gondul.
May the first bite you in the back.
May the second bite you in the breast.
May the third turn hate and envy upon you.[49]

考古学的記録

ルーン石碑

レーク石碑

ヴァルキュリヤの語はルーン石碑の碑文中にも確認できる。スウェーデンエステルイェートランド地方にある9世紀初頭のレーク石碑と、エーランド島にある10世紀のカルレヴィ石碑が代表である。後者にはスルーズの名前がある[49]。レーク石碑では、「ヴァルキュリヤの馬」というケニングが狼を指して用いられている。

That we tell the twelfth, where the horse of the Valkyrie [literally "the horse of Gunnr"] sees food on the battlefield, where twenty kings are lying.[50]

ノルウェーベルゲンで見つかったブリッゲン碑文の中に、14世紀ごろのものと思われる「ヴァルキュリヤの棒」と呼ばれるものがある。この棒にはルーン文字で呪文が刻まれている。呪文では、「癒やしのルーン」と「助力のルーン」を、エルフに対しては1回、トロルに対しては2回、霜の巨人に対しては3回刻む、と書かれており、その後にヴァルキュリヤの語が登場する。

Against the harmful skag-valkyrie,
so that she never shall, though she never would –
evil woman! – injure (?) your life.[51]

この文は、「汝に横暴な堕落と耐えられぬ欲望を送らん、汝に苦痛が降らんことを。汝座ることなかれ、眠ることなかれ。……そして我が事の如く我を愛せよ」と続く。ミンディ・マクラウドバーナード・ミーズによれば、「優しげな表現から突然に打って変わって、苦痛と不運を与えよという。これはおそらく、ヴァルキュリヤに対してではなく、呪文の受け手に対してのもの」であり、最後の行は「愛する人を守るように意図されたひねくれた呪文」であるとしている[52]

マクラウドとミーズは、この呪文の最初の行が『シグルドリーヴァの言葉』でシグルドリーヴァが授けるルーンの教えと一致していると述べている。skagの語の意味ははっきりしないが、『フンディングル殺しのヘルギの歌 その一』でシンフィヨトリグズムンドをけなす "skass-valkyrie" という言葉との関連があると考えられる。マクラウドとミーズは、この語を「超自然的に送り出されるもの」といった意味であろうと考え、ラグンヒルド・トレガガースの呪文においてヴァルキュリヤが「放たれる」と表現されていることとのつながりを指摘している[52]

その他の考古学的記録

長羽織を纏ってポニーテールにまとめた髪を背に流し、角杯を持った女性を描いた、ヴァイキング時代の様式で作られた装飾品がスカンディナヴィア中から発見されている。これらの人物は一般にヴァルキュリヤないしディースを描いたものと考えられている。ミンディ・マクラウドとバーナード・ミーズによれば、ヴァイキング時代にはこういった装飾品に「守りの力があると考えられていた」ため、魔除けとして墓に置かれたと想定されるという[53]

絵画石碑にもヴァルキュリヤと思われる図像が残されている。スウェーデンゴトランド島にあるシェングヴィーデ石碑には、8本足の馬に跨る人物に女性が挨拶している場面が描かれている。この馬はオージンの8本足の馬スレイプニル、女性はヴァルホッルにはべるヴァルキュリヤと思われる[54]。11世紀のシグルズ石碑の一つには、角杯を持つ女性ともう一人の人物が描かれており、これはシグルズに角杯を手渡すシグルドリーヴァであると解釈されている[55]

2013年、デンマークのハールヴィで、アマチュアの考古学者3人が800年頃の小さな像を発掘した。この小像は、ベストに似た袖のない長い服に刺繍の入った前掛けを着た、ポニーテールの女性を象っている。腕が自由であることは、手に持つ剣と盾で戦えることを示しているようである。考古学者モーゲンス・ボー・ヘンリクセンは、「間違いなくこの像は、700年頃にスウェーデンの石碑に描かれたものと同じく、サガに登場するオージンのヴァルキュリヤを象っている」と述べている[56]

学説

ヴァルキュリヤの起源と発展

『ノルンたち』(ヨハンズ・ゲールツ、1889年)

ゲルマン人の信仰から北欧神話への系譜の中で、ヴァルキュリヤという概念がどのように誕生し発展してきたかについては、さまざまに論じられてきた。ルドルフ・ジメックは、ヴァルキュリヤがもともとは「戦場で死んだ戦士がなる死者たちの精霊」として捉えられており、「ヴァルホッルの観念が戦場から戦士の楽園へと変じる」中でヴァルキュリヤの解釈も変わったのだと論じ、ヴァルキュリヤとオージンの強い結びつきは、初期の「死の精霊」としての役割の段階から存在したと述べている。もともとのイメージは「ヴァルホッルのエインヘリャルのように暮らしたというアイルランドの女戦士、いわゆる盾乙女によって上書きされ」たとジメックは主張している。ヴァルキュリヤは「死の精霊としての性質が薄れて、より人間らしくなり、人と恋に落ちることすら可能にな」ることによって、英雄詩の中で人気のある登場人物となりえたということになる。またジメックは、ヴァルキュリヤの名前の大部分が戦争に関する要素であることにも言及し、これらの名前は古いものではなく、「ほとんどが真の伝承というよりも詩想として生まれたものである」と述べている[57]

マクラウドとミーズは、「死体を選ぶというヴァルキュリヤの役割は、後世の北欧神話の中で、人の運命を決めるという超自然的存在であるノルンと混同されるようなった」と論じている[58]

H・E・デイヴィッドソンは、「何世代もの詩人や語り部によって顕著に洗練されたヴァルキュリヤ像が作り上げられてきたが、その中にはいくつかの観念を見て取ることができる。まず人の運命を定めるというノルンに似た部分。次に呪文によって戦場で男たちを守る予言の巫女。そして若者に加護を与え幸運をもたらす、特定の一族に憑いた強力な守護霊。最後に、黒海のあたりで実際に存在したとされる男のように鎧に身を包み戦場で戦う女たち」であると述べ、加えて、そこには「戦の後に捕虜を処刑する儀式を執り行う戦争の神の巫女」の記憶もあるだろうとしている[59]

デイヴィッドソンは、ヴァルキュリヤが字義通りには「死者を選ぶもの」という意味であることを強調している。ウルフスタンの『イングランド人への説教』にある「罪人、魔女、悪人のブラックリスト」の中で言及される人々を比較検討して、その中の「死者を選ぶもの(wælcyrge)」があくまで「人間であり、ウルフスタンが神話上の人物をここに含めたとは考えがたい」と結論づけている。またデイヴィッドソンは、アラブの旅行家アフマド・イブン・ファドラーンが詳細に記録した、ルーシによるヴォルガ川での船葬の描写の中に、「見るもおぞましい巨躯のフンの老女」(ファドラーンは「死の天使」と呼んだ)が、娘と思われる二人の女を連れ、奴隷の少女の処刑を指揮していたというものがあることを指摘している。「おぞましい仕事のせいで正気を失っていたに違いない女性について、おかしな伝説が生まれてもさほど驚くには値しないだろう。戦争で捕虜になるものもいるという明らかな仮定はさておいても、どの囚人を殺すかはくじで決められるから、神が巫女の仲介を通して犠牲者を『選ぶ』という考えは一般的であったはずである」。デイヴィッドソンは、「早い段階」からゲルマン人は、「獰猛な女性の霊が戦の神の命令を執行し、不和を掻き立て、戦に加わり、死体を取っては貪り食う」と信じていたと述べている[60]

ヴァルキュリヤの名前

古エッダ』の『グリームニルの言葉』および『スノッリのエッダ』の『詩語法』1章『名の諳誦』でヴァルキュリヤの名前が列挙されているが、『フンディングル殺しのヘルギの歌 その1』『その2』に登場するシグルーンなど、これらに含まれないものもある。ヴァルキュリヤの名前の多くは戦、特にオージンとの関連の深い武器である槍と関連付けられている[61]。ヴァルキュリヤの名前は特に個人を指すものではなく、むしろ戦の女神としての特性を記述するものとして、スカルド詩人たちによって創造されたものであるという主張もある[62]

実際、名前が役割や能力を表しているようなヴァルキュリヤもいる。へリャという名前は、187年の石碑に名前のある女神ハリアサとのつながりを示すものと解釈されている[63]ヘルフィヨトルは、足かせを置く能力を示すものと解釈されている[64]スヴィプルは、彼女が運命(ウィルドオルログとよばれるもの)に対して影響力を持つということを説明したものであろう[65]

フレイヤとフォールクヴァング

『フレイヤ』(エミール・ドプラー、1882年)

女神フレイヤと彼女が治める死後の領域フォールクヴァングもまた、ヴァルキュリヤと関連していると論じられてきた。ブリット=マリ・ネイストレムは、フレイヤが「戦に馳せては死者の半分を連れ帰る」という『ギュルヴィたぶらかし』の記述に注目し、フォールクヴァングを「戦士の領域」と解釈している。ネイストレムは、フレイヤはオージンと同じく戦場で死んだ英雄たちを受け入れるとし、彼女の館セスルームニル(ネイストレムの解釈では「数多くの席に満ちたもの」の意)はヴァルホッルと同様の機能を果たしている可能性があるとしている。ネイストレムは、「とはいえ、古代北欧ではなぜ死んだ英雄の楽園が2つあるのかという疑問は残る。一つの可能性としては、オージン側となるかフレイヤ側となるかは戦士のイニシエーションの形態の違いを反映しているのかもしれない。このような例が示しているのは、フレイヤは戦神であり、文字通り「死者を選ぶもの」たるヴァルキュリヤとしても立ち現れるということである」と述べている[66]

アンドレ・ドバも、「斃れた戦士の半分を選んで死の国フォールクヴァングに連れて行くという神話上の役割をもつことで、女神フレイヤがヴァルキュリヤないしディースの神話的見本として立ち現れている」と指摘している[67]

ディース、イディス、ノルンとの関係

『イディス』(エミール・ドプラー、1905年)

古高ドイツ語による呪文の一つメルゼブルクの呪文には、イディス(古ザクセン語: idis古高ドイツ語: itis古英語: ides)と呼ばれる女性的存在を喚び出して軍隊を遅滞させようとする術がある。呪文は以下の通りである。

Eiris sazun idisi
sazun hera duoder.
suma hapt heptidun,
suma heri lezidun,
suma clubodun umbi cuoniouuidi:
insprinc haptbandun,
inuar uigandun.

かつて賢き女ども座せり
ここかしこに。
ある者はいましめの鎖をととのえ、
ある者は敵の軍兵をおさえ、
ある者は鎖をむしりとれり。
「いましめを脱し、
敵を逃れよ!」[68]

この呪文におけるイディスは、一般にヴァルキュリヤを指していると考えられている。ジメックは、「ヴァルキュリヤは北欧神話において敵軍を縛する力を持っており、イディスは明らかにこのたぐいのものである」と述べ、ヘルフィヨトル(「軍勢の縛め」)という名前との関連を指摘している。ヒルダ・R・デイヴィッドソンは、古英語の別の呪文(Wið færstice)との比較を行って、同様の役割を措定している。

ジメックによれば、西ゲルマン語群のIdisという語は、「既婚未婚問わず、威厳ある尊敬の対象となる女性、ラテン語でいうところのmatrona」を指し、議論の余地があるとはいえ北ゲルマン語群ディースdís)との関係が十分に想定されうるという。また、紀元16年アルミニウスゲルマニクスが戦ったイディシアヴィーソ(Idisiaviso、「イディスの平原」の意)という地名にも触れ、メルゼブルクの呪文におけるイディスの役割との関連を指摘している。

古ノルド語dísは、古高ドイツ語のitisや古ザクセン語のidis、古英語のidesと同じく「女性」を表す一般名詞だが、女神の一類型を示すのにも使われたと考えられている。「エッダ資料に基づけば、ディースとはヴァルキュリヤに似た死者の守護者であり、実際、『グズルーンの歌 その1』の第19スタンザではヴァルキュリヤは「オージンのディース」と呼ばれてすらいる」。『アトリの歌』28スタンザでは、ディースははっきりと「死んだ女」と呼ばれている。ディースとは死んだ女性の魂であるという信仰は、アイスランドランドディーシルの観念にも通じるものである[69]。ジメックは、「力ある女性の役割は極めて多種多様であるから、ヴァルキュリヤ、ノルンといったディースへの信仰も、多数の女神格に対する信仰が異なる形で現れたものと考えることができる」 と述べている。

ヤーコプ・グリムによれば、ノルンとヴァルキュリヤが性質的に似ているとしても、この2つの概念には根本的な違いがあるという。ノルンもヴァルキュリヤもディースに含まれるが、「しかし2つの役割は異なるし、普通別人である。運命を告げるノルンは、糸を繰りながら椅子に座っていたり田園を歩き回ったりするが、馬に乗ると書いてあるものはどこにもない。ヴァルキュリヤは馬に乗って戦へ馳せ参じ、その趨勢を決め、死者を天へ連れ帰る。その様は英雄のごときである」と述べている[70]

古英語の同根語と語義

ウルフスタン『イングランド人への説教』の1ページ

wælcyrgeないしwælcyrieという単語が古英語写本に現れることがある。これは、古ノルド語のvalkyrjaの同根語と考えられるが、古英語では基本的に外来の概念を翻訳するような場合に用いられている。例えば、アルドヘルム『処女賛美』の11世紀初頭の写本では、ウェヌス(ueneris)の語のところにwælcyrgeないしgydene(女神)という注釈が付けられている。2つの写本(クレオパトラ語彙集コーパス語彙集)では、Wælcyrgeはギリシアのエリーニュスたちの名前の訳語として用いられている。クレオパトラ語彙集では、ローマの女神ベローナを指して用いられている箇所もある。

ウルフスタンによる『イングランド人への説教(Sermo Lupi ad Anglos)』にはwælcyrieの語があり、これは「魔女」を示す単語として使われていると考えられている[71]。エジプト軍の上を飛ぶワタリガラスを「死者を選ぶ黒きもの(wonn wælceaseg)」と書いている箇所もある。

リチャード・ノースは、『イングランド人への説教』での表現は明らかに北欧の影響を受けており、古ノルド語からの借用ないし翻訳と考えられる一方で、クレオパトラ語彙集とコーパス語彙集の例は「スカンディナヴィアの影響とは独立したアングロ・サクソンの観念であろう」と述べている[72]

近代以降の受容

ワーグナー『ヴァルキューレ』の台本表紙(1899年)
ゼーンライン社のスパークリングワイン「ラインゴルト」の瓶を検めるヴァルキュリヤ(ユーゲントシュティール様式の広告、1901年)

ヴァルキュリヤは、19世紀以降、美術音楽など、さまざまな芸術作品のモチーフとされてきた。特にドイツでは、ロマン主義汎ゲルマン主義の潮流の中で、『ニーベルンゲンの歌』などを通してゲルマン文化としてのつながりを示す北欧神話への興味が高まり、多くの作品が作成された。

詩では、ハインリヒ・ハイネの「ワルキューレ」(『ロマンツェロ』所収、1847年)やH・フォン・リンゲの「ワルキューレ」(1864年)、スウェーデンの詩人カリン・ボイェの「スケルドモン」(『ゲンダランド』所収、1924年)などがよく知られている[57]

美術作品としては、J・G・サンドバーグM・エヒターA・ウェルチT・ピクシスA・ベッカーK・エーレンバーグH・ギュンターH・ヘンドリッヒJ・C・ドールマンA・コルブE・ハンセンといった作家が、ヴァルキュリヤを主題とした作品を制作している[73]

音楽作品で最も有名なのは、リヒャルト・ワーグナー楽劇ニーベルングの指環』の第1幕『ヴァルキューレ』であろう。『ニーベルングの指環』は、『シグルドリーヴァの歌』や『ヴォルスンガ・サガ』など北欧のシグルズブリュンヒルドの物語をベースとして作劇され、9人のヴァルキューレがヴォータン(オージン)の娘として登場する。彼女らの名前は(ブリュンヒルデを除き)ワーグナーの創作であり、古ノルド語の資料には登場しない。ワーグナーの創造した神話世界は、原資料の描写を侵食するほどの印象を大衆に与え[74]、後世のヴァルキュリヤのイメージにも大きく影響した。

現代では、北欧神話や『ニーベルングの指環』をモチーフとしたファンタジーテレビゲームなどにおいて、戦闘を担う女戦士としてヴァルキュリヤが登場することがある。例えば『ヴァルキリープロファイル』では主人公がヴァルキリーであり、来るラグナロクに備えて斃れた戦士の魂を集める役割を担う。

脚注

  1. ^ Byock (2005:142–143).
  2. ^ Orel (2003:442).
  3. ^ Simek (2007:254 and 349).
  4. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.12. ヴァルキュリアの名前については Orchard (1995:193–195).
  5. ^ Larrington (1999:57). ヴァルキュリアの名前については Orchard (1995:193–195).
  6. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.93.
  7. ^ Orchard (1997:83).
  8. ^ Simek (2007:251).
  9. ^ Larrington (1999:102).
  10. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.104.
  11. ^ Orchard (1997:194).
  12. ^ Larrington (1999:116–117).
  13. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.106.
  14. ^ Larrington (1999:120).
  15. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.108.
  16. ^ Larrington (1999:122).
  17. ^ Orchard (1997:81).
  18. ^ Larrington (1999:125).
  19. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.114.
  20. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.115.
  21. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.116.
  22. ^ Larrington (1999:132).
  23. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.119.
  24. ^ Larrington (1999:133 and 281).
  25. ^ Larrington (1999:135).
  26. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.125.
  27. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.143.
  28. ^ Larrington (1999:166–167).
  29. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.144.
  30. ^ a b 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.253.
  31. ^ Faulkes (1995:68).
  32. ^ Faulkes (1995:69).
  33. ^ Faulkes (1995:94).
  34. ^ Faulkes (1995:102).
  35. ^ Faulkes (1995:117–119).
  36. ^ Faulkes (1995:157).
  37. ^ Jónsson (1973:678).
  38. ^ Hollander (1980:54).
  39. ^ Hollander (1980:54–57).
  40. ^ Hollander (1980:66).
  41. ^ Hollander (1980:68).
  42. ^ Hollander (1980:66).
  43. ^ Finlay (2004:58).
  44. ^ Finlay (2004:59).
  45. ^ Hollander (2007:124–125).
  46. ^ Hollander (2007:125).
  47. ^ Hollander (2007:126).
  48. ^ Hollander (2007:126–127).
  49. ^ a b MacLeod (2006:37).
  50. ^ Andrén (2006:11).
  51. ^ MacLeod (2006:34–35).
  52. ^ a b MacLeod (2006:34–37).
  53. ^ Orchard (1997:172) and Lindow (2001:96).
  54. ^ Lindow (2001:276).
  55. ^ Wessén & Jansson (1953–58:621).
  56. ^ Kennedy (2013).
  57. ^ a b Simek (2007:349).
  58. ^ MacLeod (2006:39).
  59. ^ Davidson (1990:61).
  60. ^ Davidson (1990:61–62).
  61. ^ Davidson (1988:96).
  62. ^ Davidson (1988:96–97) やSimek (2007:349)など。
  63. ^ Simek (2007:143). For Hariasa, Simek (2007:131).
  64. ^ Simek (2007:142).
  65. ^ Simek (2007:308).
  66. ^ Näsström (1999:61).
  67. ^ Dobat (2006:186).
  68. ^ F.マルティーニ著『ドイツ文学史』高木実、尾崎盛景、棗田光幸、山田広明 共訳、p.22。
  69. ^ Simek (2007:61–62).
  70. ^ Grimm (1882:421).
  71. ^ North (1997:106).
  72. ^ North (1997:106).
  73. ^ Simek (2007:349–350).
  74. ^ Gentry et al. 2011, pp. 222.

参考文献